『日本沈没』昭和版・平成版・令和版、それぞれに映し出された「圧倒的な時代の空気」

堀井 憲一郎 プロフィール

惹かれあうこの二人は、地球のどこかで再びあいまみえるかもしれないと、そうおもわせて、終わっている。

雄大だといえば雄大だし、かなりロマンチックな気配が漂う。

 

「70年代らしい」ドラマ

1974年の連続ドラマは、主演が村野武範でヒロインが由美かおる。とても70年代らしさいっぱいである。

この二人は、沈みゆく日本列島に最後に残された二人のように描かれ、崖(最後に残った日本の土地)から落ちそうになった由美かおるの手を村野武範がその手をつかんだところで物語は終わっている。救助ヘリが飛んでいたから救われたのだとおもうが、詳しいことはわからない。

そのあとは「日本は沈んだ、永遠に海の底へ」というナレーションが入り、日本の祭りなど四季折々の美しい映像が流れ、「あの龍の形をした列島の姿は、もうどこにもない」、「でも世界に散らばった日本民族は力強く生きていくだろう」というナレーションで終わっている。

ちょっとすごい。

どこか他人事感がある。

「壮大な民族的苦難」を迎えても日本人なら大丈夫だと主張しているかのようだ。

雄大な考えだと感心することもできるが、中学二年生が夜中に自室で勝手に高揚しているのとあまり変わらない、とも言える。

「海外に住むのも、それもいいんじゃないか」と心のどこかで考えているふしがある。変にロマンチックであり、それがどうも1970年代の国民的気分だったのだ。

言われてみれば、そういう時代だった。

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