『日本沈没』昭和版・平成版・令和版、それぞれに映し出された「圧倒的な時代の空気」

堀井 憲一郎 プロフィール

なかなか懐かしい。ただ、もう一回あの時代を経験してもらいます、と言われたら、ちょっと逃げ出したくもある。

 

平成の物語

2006年、平成の映画の主演は、草なぎ剛と柴咲コウであった。

ラストが違っていた。

主人公の設定は、原作どおり深海潜水艇を動かすパイロットである。

ある程度まで日本が沈んだところで、潜水艇の若者たちの英雄的な活動によって、沈没が止まる。若者たちが身を挺して沈没を止めた。

これが平成の物語である。

人類の叡智を集結して、地球の動きを止めたのだ。

なかなかすごい。

結果、日本列島は残る。ただし標高の高い部分しか海から出ていない。

列島全体が何百メートルか沈んだから、日本は「小さい島の連合体」となってしまった。

どこが残ったのか明確には言及されない。

たぶん千葉県は残念ながらすべて水没したのではないかとおもわれ、また、東京も23区側はかなり沈んでいるはずだ。

そういう残りかたをした。

これはこれで、この形の国の未来が知りたくなる。

すでに大勢の日本人を海外に逃がしているので、「やがてその人たちも呼び戻したい」と最後に残留日本政府の代表となった鷹森大臣(大地真央)が宣言している。

ちなみに、2006年の平成映画で「皇室はスイスへ」と言及されていた。

これは、もともとの小松左京の原作でも触れられている。まだ完全に沈みきる少し前に。皇室はスイスへ、政府中枢はパリに移り、救出本部はホノルルに置かれたと小説では書かれているのだ。

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