誰もが気楽に利用できるが、特別な期待は持たないのが「ファミレス」。が、千葉県ユーカリが丘にある「里山transit」は、オープンから3年、コロナ禍の緊急事態宣言を超えて、来店した客の8割近くがリピートする大繁盛となった。
前編「リピーター率75%超!都心まで1時間のファミレスに人が集まる「仕組み」とは」では、「成長管理型」と呼ばれるユーカリが丘の街の成り立ちと、それに感銘し、出店を願い出た「ミナデイン」の大久保伸隆氏の話を聞き、人気店が生まれる土壌についてお伝えした。後編では、話題の「里山transit」店長の西山征希さんに話を聞いた。郊外のファミレスに何を期待して客が集まるのか。そして、集まるようにするためにどのような工夫がなされたのだろうか。
「繁盛間違いなし」の自信は砕けた
オープン以来、「里山transit」の店長を務める西山さんは、大久保さんのかつての部下だ。飲食店経営の家に生まれ、自分も飲食店経営をやりたくて、大学卒業後に居酒屋チェーンに就職し、副社長だった大久保さんに出会った。その後大久保さんが2018年に独立をすると、後に続いた。「里山transit」の構想を聞いたのは、その頃だ。

「前職では接客を中心に、運営や人材教育の実績もそれなりにあったし、代表の考えも理解していたから、自分なら十分できると思いました。唯一料理に関しては、それほどやってはこなかったけど、新橋の系列店「烏森百薬」の人気メニューを出せるのなら、繁盛間違いなしと思ったのですが……」
結果は、散々だったという。
「『烏森百薬』では、仕込みの労力を抑えながら、クオリティの高い料理を担保するのに、全国の名店から唐揚げや餃子をお取り寄せしています。他にも、後継者がいないため、多くのファンがついていながら継承するのが難しい“絶メシ”と呼ばれるメニューも食べられます。そうしたメニューは、『ガイアの夜明け』やホリエモンチャンネルでも絶賛されるほどの人気だったので、同じものを出せば、ユーカリが丘のお客さまにも喜んでもらえると思っていました。
でも、地元のレストランにごはんを食べに来たお客様と、新橋に飲みに来たお客様は、店に望むことが全く違った。例えば、人気の唐揚げを勧めると、『なぜ、定食がないのか』と聞かれる。ビールを頼まれ、お通しを出すと、『お通しなんて頼んでいない』と言われる。他にも、イラストを使ったメニューは『料理がわかりにくい』『写真が載っていない』『メニュー数が少なすぎる』……。お客様の不満の声を聞きながら、新橋の流行をそのまま持ってきても、喜んでいただけないんだと気づきました。そして、自分には実績なんてない、東京の居酒屋のやり方しか知らなかったという事実にも。じゃあ、どうするか。お客様に聞くしかないと思いました」
