「想定外の出来事」がストレス
今回、その自閉症スペクトラムに悩んできた43歳女性にこれまで来し方を振り返ってもらい、発達障害だからこそ起こり得るストレスをどう克服しつつあるのかを語ってもらった。聞けば聞くほど、やはり人はひとりでは生きていけないことがわかる。
「わたしが誰かから求められていて、役割が決まっている。それでわたしがどう振る舞えばいいのかがわかっている――。そこが楽なんです」
こう語るのは前出43歳女性だ。文中ではその名をケイコさんとしておく。ケイコさんの性的嗜好はSM、そのなかでもM(受け身)が彼女の立ち位置である。S(責め手)はしないし、できない。意外にもSは、ただ思うがままに好き勝手に振る舞えばいいというものではなく、「相手が何を求め、欲しているかを察する必要があるから」だそう。
ケイコさんのSM、とりわけMへの性的嗜好は、5年前、自閉症スペクトラムの診断を受けた後、ひょんな切っ掛けで開眼した。以来、発達障害ゆえのストレスに悩むことがめっきり減ったと語る。
「当時38歳です。いくつかの恋愛も経験してきました。セックスはノーマルでした。苦痛でしたね。相手、男性はいきなりいろいろなことをしてきます。予定にない行動、行為、これがストレスです。それ以上に、わたしが何をしたらいいのかがわからない。嫌ですよ」
子どもの頃からずっとケイコさんがストレスに感じてきたのが「想定外の出来事」だ。たとえば学校でも、仕事でもいい。終わって家に真っ直ぐ帰るという日常がある。その日常、すなわちルーティンが崩れる、崩されると、酷い違和感、気持ち悪さに悩まされるのだ。
「たとえば外出後の帰り道なら、かならず気に入りのドーナツ屋さんの前を通らなければならない。その後は近所のスーパーに立ち寄り、野菜、肉、魚、調味料の各売り場に、今、わたしが言った通りの順番に立ち寄らないと、とても気持ち悪くて気になるのです」

このみずから立てた予定通りの行動がうまくいかなければストレスになる。もし、その帰りの道すがら、偶然、知人に会い、声を掛けられ話でもされようものなら、その後しばらくの間、不快感に悩まされるという。
「それでも、そのお会いした知人と楽しく話はできるんです。ただ心のなかではモヤモヤした感じがあります。どうせなら前もってアポを取ってくれていたら、その時間、もっと会話を楽しめただろうなと……」