ニクラスさんの死に残された不審な点
ニクラスさんの死には、多くの不審な点がある。そのひとつが、額に残された大きな傷だ。
診断書には、死因は「心筋梗塞」とのみ記載されているが、ニクラスさんの遺体の額には、大きな傷が残っていた。入管に収容されたたった5日間の間に、いったいなぜこんな傷ができたのだろうか。
湾岸警察署の説明によれば、「遺体を病院から警察署に運ぶ際に車が揺れ、ストレッチャーの鉄パイプの部分に頭をぶつけて傷ついた」という。しかし、ジョージさんがそれを「正式な書類として文章で説明していただきたい」と求めたところ、謝罪はされたが文書の提出は拒否された。
この傷は、本当に死後にできたものなのだろうか? 警察署の説明が正しければ、病院の時点では傷はなかったはずだ。しかし、病院で撮られた遺体の写真には、すでに額の傷があったのである。さらに「頭をぶつけた」というならば、後頭部に傷が残るのが普通ではないか。なぜ、額に大きな傷があったのか?
この問題について、入管に情報開示請求を求めたが、3回拒否された。4回めでやっと出てきた調査報告書は、あらゆる項目がすべて「黒塗り」の状態だった。これでは情報開示の意味がまったくない。施設内には監視カメラが設置されているから、ニクラスさんが死ぬ間際まで監視カメラの記録は残っているはずだ。そこでカメラの映像の開示を求めたが、やはり明確な理由なく拒否された。

ブラックボックスの中で、悲劇は連鎖する
ジョージさんは、次のように語る。
「お父さんは、入管に殺されたと思っています。あの傷だって入管の職員に殴られたものかもしれない。みんな嘘、嘘、嘘ばかり言うから信用ができない。死んでから救急車を呼ぶなら、なぜ死ぬ前に呼んでくれなかったのか。やましくないないなら、監視カメラのビデオを見せてほしい。お父さんは苦しんで死んだ、本当は助かったかもしれないのに。これはウィシュマさんと同じです」