トラブルメイカーの新任米国駐日大使、ラーム・エマニュエルの実像

これがバイデンの「日米関係重視」
ロバート・D・エルドリッヂ プロフィール

バイデンは追い出したかった?

読者のご存じのように、その時の副大統領は、今のバイデン大統領だが、この2人も特に仲がいい訳ではない。

バイデンは、オバマ大統領の代理で2011年のエマニュエル氏のシカゴ市長就任式には参加したが、それ以外は、あまり接点がないようだ。2008年に刊行されたバイデンの回顧録には、同じ議会につとめたエマニュエル下院議員について何も言及がなく、オバマ政権が終わった2017年に出版した別の回想にも登場していない。

であれば、なぜ、バイデン大統領は、エマニュエルを大使として指名したのだろうか? いろいろな説がある。

内部情報を持つある記者は、エマニュエルの指名について、2020年の民主党予備選で同氏が、医療法人と取引する投資銀行の役職にありながら、医療改革を強く主張する人気と発言力のあるバーニー・サンダースの予備選挑戦をかわすためにメディアで、サンダースとその支持者が主張する国民皆保険政策のメディケア・フォー・オールを攻撃したことに対する「報酬」であると述べている。

「Rahm's Reward」という記事によると、エマニュエルは2019年9月にABCテレビの「This Week」に出演し、メディケア・フォー・オールを「手に負えない」と言い、翌10月には「Medicare-for-All is a Pipe Dream」という同じ趣旨の論説をあの『ワシントンポスト』に書き、いずれも自分の所属を明らかにせずにやっているのだそうである。

所属を明かさずという情報開示の欠如は、許しがたい倫理違反であった。彼も、民間医療保険企業からの広告で大きな利益を得ている米国の主流メディアも恥を知るべきだが、その数ヵ月後に民間企業GoHealth社の役員を引き受け、市長として推進したと報じられたことを止めることはできなかった。

エマニュエルが助けたのはこの会社だけではなかった。少なくとも、日本のある技術系企業が受注し、地元労働者の大量解雇につながった、物議をかもすプロジェクトの決定にも関係しているようだ。公聴会でそのことが話題になれば、その企業の名前を泥の中に引きずり込むことになり、日本のイメージによくないのではと危惧していたが、結局取り上げられなかった。

また、運輸長官のポストをもらわなかった代わりに、大使のポストをもらったとも言われている。それにしても、なぜ駐日大使という重要なポジションなのだろうか。

 

にもかかわらず、ある米国の大学の研究者は、エマニュエルが日本に赴任しても「日本人は大丈夫」と考えていると、『ワシントン・ポスト』紙の論説に書いている。さらに、その人は、エマニュエル氏が指名されるべき理由の一つとして、「結果を考える」ことが重要であると述べている。つまり、もし、彼が日本に行かなかったら、ワシントンD.C.でもっと重要な任務に就くことになる、つまり、エマニュエル氏を地理的に可能な限りワシントンから追放するのである、ということだ。

これが、バイデン政権が、東アジアという地域、いや世界で最も重要な同盟国を扱うべき方法なのだろうか? 特別な利権を推進することから「1%の市長」と呼ばれ、再選前に市内で起きた、警察による黒人青年殺害事件の隠蔽疑惑で、信用を失ったある市の首長を任命することが、日米関係やインド太平洋地域における米国の地位、中国の覇権主義への取り組みに対する闘いにどう役立つというのだろうか。

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