「新型コロナウイルスの流行で、病院に行きにくくなった」という声が聞かれるが、それは本当に「困ったこと」なのだろうか? 病院に行けないという非常事態から、「病院に行かないほうが健康になる」という、驚くべき考察が導き出された。イェール大学ヒューマンネイチャー・ラボ所長を務める医師にして社会学者、世界が注目する「知の巨人」ニコラス・クリスタキスが、ポストコロナの世界を考察する。『疫病と人類知』からその一部をご紹介しよう。
医療過誤の原因は「失敗する医師」ではなかった
いくつかの指標によると、医原性(医師の診断・治療が原因)の病気や怪我は社会で人の命を奪う主な要因となっており、アメリカでは病院の内外で毎年5万人から10万人もの死者を出しているという。医療過誤と聞くと、あなたは何を思い浮かべるだろう?
〇外科的ミス(患者の腹部にスポンジを残したまま手術を終える)
〇投薬ミス(胃酸を抑制するロセックの代わりに利尿剤ラシックスを処方するなど)
〇外科医が誤って健康なほうの腎臓を摘出
だが、実態は異なる。尿路感染症、手術部位感染、肺感染症、血流感染症などなど……。病院での感染(院内感染)が頻発し、医原性の病を引き起こしているのだ。