もう噂は、聞きましたか?
この言葉を聞いて、脳内で音楽つきで再生された人は、きっとアニメ『はいからさんが通る』を見ていた人である。そう、これは1978年から放送されたテレビアニメ『はいからさんが通る』の主題歌の冒頭の一文。そんな40年近く前に一世を風靡した漫画は、ずっと読み継がれ、さらに今改めて注目を集めている。
2話の無料試し読みとともにその魅力をお届けする。
マンガ/大和和紀 文/FRaUweb
『あさきゆめみし』とセットになっている作品
『はいからさんが通る』の作者は、2021年で画業55周年をむかえ、源氏物語を漫画化した超大作『あさきゆめみし』の新装版が発売開始となった大和和紀さん。この『あさきゆめみし』連載開始より少し前、1975年から76年にかけて「週刊少女フレンド」で連載され、大人気となったのが『はいからさんが通る』だった。
連載時から大人気を博した本作がテレビアニメ化され、その後何度も実写ドラマ化、映画化、舞台化、劇場アニメ化もされた。いわゆる少女漫画の金字塔といえる。
2021年12月13日より発売となった『あさきゆめみし 新装版』が話題になった際、こんな言葉が多くSNSで見受けられた。
「『あさきゆめみし』も『はいからさんが通る』も全巻持ってる」
「『はいからさんが通る』はお母さんが大好き」
「『はいからさん』と『あさきゆめみし』はマストだった」
「はいからさんとあさきゆめみしは人生を変えた漫画」等々……
つまりは『あさきゆめみし』を語るとき、多くの人が『はいからさんが通る』を語りたくなる。対になっているような作品なのだ。

大正時代を舞台に描いた「選択する女性」の考え方
簡単に『はいからさんが通る』の内容をおさらいしてみよう。
時は大正7年。陸軍少佐の一人娘・花村紅緒は、幼い時に母を亡くした女学生。幼馴染で歌舞伎役者を目指している蘭丸と朝から剣道の稽古をし(そして勝つ)、自転車を乗り回す「ハイカラ」なお転婆だ。良妻賢母を育てる女学校でもお裁縫は大の苦手。料理はジャガイモを向くと実がなくなるありさま。平塚雷鳥に惹かれ、学術優秀で容姿端麗な北小路環と親しくなる。
そんな時、一度すれ違ったことのある陸軍少尉・伊集院忍が祖父母の代から決められた婚約者なのだと告げられる。

少尉・忍と勝手に決められた縁談に反発し、そこから物語は大きく動いていく……。
大正時代は1912年から1926年のわずか14年あまりだが、大正デモクラシーによって婦人参政権をはじめとしたさまざまな制度が前に進んだ時代であり、シベリア出兵や関東大震災で多くの人が命を落とした。まさに激動の時代だ。その時代を舞台とした、コメディ要素と恋愛要素たっぷりの、シリアスなシーンもたくさんある大河ロマン。『はいからさんが通る』はそんなエンターテインメント作品である。