『あさきゆめみし』の朧月夜に重なる環の言葉
なにより、その激動の時代に振り回されながらも、「自分の意思」で変わっていく登場人物たちはみな魅力的だ。主人公の紅緒をはじめとした女性たちは、それまでの「女性はかくあるべし」の意識が大きく変わった節目にいた。誰かに選ばれるのを待つのではなく、ただ守ってもらうのではなく、自分で問題を解決すべく考え、決断する。そのために学び、経験するという新たな選択肢が生じるようになった時代だったのだ。「良妻賢母たれ」といわれていた女性たちが、自分らしい生き方とは何かを見つけていく物語でもある。

『あさきゆめみし 新装版』発売を記念して前川亜紀さんがおこなったインタビューで、大和和紀さんは次のように語っている。
「人として好きなのは朧月夜です。ハッキリしていて、わかりやすい。余談ですが、私スヌーピー(米コミック『PEANUTS』)の登場人物で好きなのはルーシーなんです。『はいからさんが通る』の北小路環もそうですが、ハッキリとモノを言う女性に憧れがあります」
「昭和の価値観」と言われる「男子厨房にいるべからず」「良妻賢母たれ」が昭和どころかもっとすごかったと思われる平安時代に、「私があなたを選んだ」と光源氏に語った朧月夜。「わたしたちは殿方に選ばれるのではなく、わたしたちが殿方を選ぶのです」と語った北小路環。「頭が良くても大学に行けないなんてナンセンス!」と盛り上がる花村紅緒。

すべての登場人物の生みの親の大和和紀さんが描いた女性の生き方が、今の女性たちを支えてもいるのではないだろうか。1975年にそんな生き方を描いた大和和紀さんのすごさを、改めて感じさせられるのである。