全盲の人は、こんな風に世界と向き合っている…「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の衝撃
『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』(DID)は、1988年にドイツで考案され、その後世界各国に広がった、体験型のエンタテインメントだ。「純度100%の暗闇」環境のもとで、対話を通じ新たななにかが「見えてくる」という現象が起こるという。その体験を、セクシャルマイノリティを公表し、女性間風俗店を営む橘みつさんが著した。
前編:「性別、人種、年齢とかで区別されない「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」その驚きの世界」
やっぱり無理かもしれない
『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』の体験は間違いなく、事前情報が無いほうが楽しい。だから本記事でも、これから参加する人の体験価値を低減させないよう、この先の風景を詳細には書かない。その代わり、わたし達3人が過ごした「対話」のことを中心にレポートしよう。
暗闇の中では相手の表情を読めないからか、普段よりも自分のテンポで会話ができる。なんでもない会話でも、きちんと相手と繋がる感覚になってしまうという、不思議な魔法がかかるのだ。
「今日アテンドするタエです、よろしくお願いします。進んでいく前に、いくつか注意事項と心構えをお伝えしますね」
タエさんは落ち着いているけれど、親しげな声で説明をしてくれた。動作だけじゃ誰も気づけないという、当たり前だけど忘れやすいこと。声を出していれば闇の中でも存在が消えないこと。何かに触るときはまず手の甲を向けて確認すると、ケガもしないし他の人と気まずくならないこと。
白杖はエンピツ持ちで地面に添わせるように動かすこと。意外と、白杖から伝わってくる情報は多いということーー、など。友人は素直に、はい、わかりました、と声で返事をしていた。いいぞ、適応が早い。
それでは、灯りを絞っていきまーす…と声をかけられ、だんだん暗闇が迫ってくる。やっぱり無理かもしれない、と思った。冷汗がドッと吹き出て、走って扉を開けに行きたい気持ちに駆られる。

不安を鎮めるには他の人の存在を感じることだ、とついさっきタエさんが話していたとおり、友人の位置を手の甲で確認した。そしてとにかく、喋らねば。
「ふ、不安ですね、久しぶりだと…」
人の前だと強がってしまう。不安なんてもんじゃない、本当は恐怖って感じなのに。
「お、ちゃんと暗くなりましたか? わたしはいつも、こんな感じで生活をしているんですよ。灯りがついてるかどうかは関係が無くて。帰宅しても電気をつけ忘れていて、他の人が帰ったときに電気がついていなくてびっくりされたり」
エピソードを聞いて、恐怖が抜けていく。この暗闇のエキスパートに頼るしかない。前も楽しめたんだから、きっと大丈夫。