「お二人は普段からよく会う感じですか?」
「そうですね、よく出かけたりします。興味深い場所に連れて行ってもらったりして」
「じゃあ、わたしが仲間に入れてもらう形ですね。お名前を聞いてもいいですか」
言葉数が減ったわたしの代わりに、友人が答える。思ったより平気そうだ。友人・恋人・同僚、どの枠組みで聞くでもなく、関係性の距離感を尋ねるタエさんの質問。これなら、どう答えるかを相手に委ねられる。

恐らくこれは他の人がいるときもそうなのだが、わたしの参加した限り、「ダーク」では照明が落ちてから自己紹介タイムに入る。見た目を名前と一致させないから、先入観が邪魔してこない。発している音や声などの「振る舞い」だけが、その人の印象を形づくっていく。
そもそも表情がわからないから曲解できない。そしてこの方法なら、見た目と呼び名と声が一致していないから、性被害などの可能性も低減できているんじゃないかと思う。まぁそもそも、参加者は歩行すらままならないのだけれど。
今いる場所から遠ざかる
「今日はこれから、電車に乗っておじいちゃんの家に行きます」
クリスマスバージョンでおじいちゃんの家に行く、とは? 顔こそ見えないけど、「ほぉ、」と答える友人の頭上ハテナマークに浮かんだのが”見えた”。
「じゃあ、出発しますよ~ついてきて、こっちこっち。この音に向かってきて~」
タエさんの声が、クリスマスっぽい鈴の音と共にみるみる遠ざかっていく。頭上の何かにぶつかるんじゃないかって不安で、なかなか前に進めない。必要以上に広い範囲を白杖で確認しながら、普段の4倍遅いスピードで歩く。途中で床が「地面になった」ことを白杖の感覚で知った。