2021年、作家も「ドハマリ」した凄い本…ミステリーから歴史小説まで「ベスト6」を選んだ
コロナ禍中で始まった2021年は、東京オリンピック&パラリンピックの開催、菅内閣が辞職して岸田内閣の誕生……と激動の一年でした。年末年始には、ひさしぶりにゆっくり休んで読書に没頭したいもの。
今回は、重厚な歴史時代小説からエンタメ警察小説まで幅広く作品を手がける鳴神響一さん、丹念な海上保安小説への取材による『海蝶』や『感染捜査』といった“海保小説”という分野を生み出しつつある吉川英梨さんという人気作家のおふたりに「年末年始におすすめの本」を伺いました。
「おいてけぼり感」すらすがすがしい
――吉川英梨さんにとって、今年はどんな一年でしたか。
吉川:コロナ、コロナの一年でしたが、コロナ以外のところで家族の病気やケガが相次ぎ、大変な一年でした。そんな中で日々押し寄せる締め切りを一本も落とさなかったので、自分で自分をほめてあげたい(笑)一年でした。
――執筆活動で、日々お忙しいですよね。本が好きで作家になるけれど、作家になったら作品の資料以外の本を読む時間をとるのが難しいとよく聞きます。
そんな吉川さんが時間の合間を縫って読んで、みなさんにお勧めしたい本を教えてください。
吉川:まず、世界的なベストセラーで、日本では2019年に発売された『三体』(劉慈欣・著、早川書房)です。2020年に『三体II 黒暗森林』、今年は『三体III 死神永生』が話題になっています。
『三体』は、文化大革命で物理学者の父を惨殺されたエリート女性科学者が、人類の運命を左右するかもしれない極秘プロジェクトにスカウトされるところから始まるのですが、科学の知識がない私にはとにかく難解で、最初はつらい読者体験でした。
実は二度ほど途中で挫折したのですが、「やっぱり読了してみたい」という欲求にかられ――ようやく物語の全貌がつかめたときのカタルシスたるや! 難解な科学用語のオンパレードで説明もない、この“読者おいてけぼり感”が却ってすがすがしさすら感じられるほどです。
一方で、一般的な小説よりも章割りがたくさんあることで、小さな達成感を読者に積み上げさせてくれる、細やかな配慮も見られる作品です。ベストセラーになりながらも読み逃していた方には、この機会に手に取っていただきたいです。