50代らしきお客さんたちが入ってきた

手帳と向き合っていると、ポツポツとお客さんが入ってきた。なぜか50代以上のスーツを着た男性ばかり。その中でひとりでボーっと豚串とウーロンハイをダウンタウンさんと一緒に堪能した。

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頭上にはテレビがある。その日は、10月20日。松坂大輔投手の引退会見の翌日。会見の様子を夕方のニュースで報じていた。客もみんな、飲みながらテレビの方に意識を向けているようだ。

ちなみに自慢ではないが、私は全く野球に明るくない。松坂選手が投手で、メジャーリーグにもチャレンジしたことのあるすごい人だと知っている程度だ。3年で4億円という契約を終えた翌年、年俸1500万円で移籍してまで野球を続けた人だと、このときはまだ知らない。

そんな私だが、会見をしている松坂選手からは視線をはずせなかった

2021年10月19日の会見で、23年の選手生活に幕をおろすと発表した松坂大輔さん。Photo by Getty Images

お店に推しの卒業ライブのような一体感が

「諦めの悪さをほめてやりたいですね」
「諦めなければ最後は報われると強く感じさせてくれたのは夏の甲子園のPL学園との試合ですかね。(中略)最後まで諦めなければ報われる、勝てる、喜べると。あの試合が諦めの悪さの原点だと思う」

そう語っていく松坂選手。「野球の楽しさ、野球が好きだというのをその都度思い出してなんとか気持ちが消えないように戦っていた時期はありますね。(中略)好きなまま終われてよかったです」と語った松坂選手の上に、デカデカと表示される「あきらめの悪さ」というテロップ。

37歳芸人・女性と50代サラリーマン男性数名しかいない店内は、推しのグループ卒業ライブを見届けるかのような一体感が一瞬だけ流れた気付くと私も泣いていた。私も、というと事実とは違うかもしれない。まじまじと顔を見たりはしなかったから。

涙腺が緩む音とでもいうのか、「あきらめの悪さ」というテロップが出た、この一瞬の間に、客と松坂選手と私がリンクした。家族に報告したときの話を聞かれ涙ぐんだ瞬間より、私たちはこの言葉によって一体化したのだと思う。

粘ることが美学だった人たち、粘ってきた人たちと一緒に、その最後の世代の象徴を見たような気がした

写真提供/バービー