年金官僚と戦ったジャーナリストが、審議会入りして「解任」されるまで

【前編】最後の仕事は「議事録改ざん」の告発だった
ジャーナリスト・岩瀬達哉氏が、著書『年金大崩壊』『年金の悲劇』で、破綻しゆく日本の年金制度を告発したのは18年前のことだ。その活動を評価した政府は、岩瀬氏を日本年金機構設立委員に任命し、多くの年金関連の審議会・委員会にも名を連ねてきた。だが、「年金官僚」の本質は、残念ながら変わらなかった。岩瀬氏の審議会での最後の仕事は、その議事録の「改ざん」疑惑の告発だったのだ。委員退任にあわせて、岩瀬氏の手記を公開する。

私の任期満了にあわせて「処理」

日本年金機構の「実績評価」や「調査審議」を使命とする社会保障審議会年金事業管理部会において、イレギュラーな審議がなされた。

2021年12月17日開催の「第58回部会」でのことだ。この日、予定していたすべての議事を終了したのち、わたしの異議申し立てによって半年近く公開できずにいる「議事録(案)」について、増田寛也部会長(日本郵政社長)は、わざわざ「議事外」と断ったうえで、事務局の厚生労働省年金局事業企画課に状況説明を求めた。

Photo by GettyImages
 
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議事録は、審議会での議論を記録する重要な公文書である。その扱いに関する審議を、記録に残さなくてもいいとされる「議事外」にするなど、過去に例のないことであろう。

要請を受けて事業企画課は、次のように説明したという。

「岩瀬前委員は、当該『議事録(案)』の一部が改竄されていると主張しているので、『議事録(案)』作成のもととなった音源を聴いてもらい、記載内容と音源が一致していることを確認してもらった。

しかしそれでも納得せず、音源を確認したいと言って、その貸し出しを求めているが、音源は議事録を作成した事業者の所有物であり、事業企画課は保有していない。手元になく、これ以上開示を求めるつもりもない」

実際わたしは、この半年前の2021年6月28日に開催された「第56回部会」の「議事録(案)」には、日本年金機構による意図的改竄がなされた箇所があると指摘。部会の庶務を担当する事業企画課に対し、このままでは断じて承認できないと抗議してきた。
詳しくは後述するが、このわたしの抗議に対し事業企画課は、誠実に対応することなく、なし崩しで改竄問題を葬り去ろうとしてきたのである。

わたしと年金局とのかかわりは14年前にさかのぼる。2007年7月、総務省に設置された年金業務・社会保険庁等監視委員会の委員に任命されたのち、2008年11月に日本年金機構設立委員会の委員に就任。その後も社会保障審議会日本年金機構評価部会委員、そして年金事業管理部会委員を歴任し、2021年12月8日で委員任期満了となった。

まさに、わたしが委員でなくなる日を待っていたかのように、冒頭の部会で、異議申立てをしている「議事録(案)」の処理がなされようとしたのである。

それにしても事業企画課の説明は、およそ論理性と説得力に欠ける稚拙な説明である。

そもそも、わたしの質問に対する機構の答弁が、「議事録(案)」ではまったく語っていなかった説明に書き換えられていたのである。「議事録(案)の記載と音源が一致している」からといって、改竄がなされていないことの証明にはならない。このことをわたしは、部会の席でも発言し、改竄された議事録にあわせ音源も改竄されているという趣旨の指摘をし、音源の貸し出しを求めてきた。

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