日本の合法的中絶で主に用いられてきたのは、1906年にドイツから日本に入ってきた搔爬法です。海外では1970年代の合法化の際に、搔爬法から吸引法へと一気に置き換えられましたが、日本では吸引法はあまり広まらず、現在でも過半数の中絶手術で搔爬法が用いられています。搔爬手術は慣れると簡単だと言われますが、慣れるまでに練習台にされているのは生身の女性の身体です
施術時間は10~15分間だと言われ、先端が小さい穴あきスプーンのようになった金属製の道具を用いて子宮内膜を掻き出します。妊娠産物が小さすぎると「取り残す」ことがあるとして、ある程度妊娠週数が進んでからでないと搔爬を行わない医師も少なくありません

その間、中絶を先延ばしにされる女性にとってこれはたいへん酷なことだし、中絶に関わる医療者にとっても罪悪感が募ることでしょう。実際、1970年代にブームになった水子供養以前は、医療従事者たちが「中絶胎児の供養」を行っていたそうです。

 

水子供養専用の寺が誕生したのは1971年で、この寺の開山式には時の首相が参列していました。この首相は日本が海外から「堕胎天国」と呼ばれることを気にしていましたが、実のところ労働力不足の対策として、中絶しにくいように人々の意識を誘導しようという意図もあったようです(参考:『中絶と避妊の政治学』ティアナ・ノーグレン著)

この頃、優生保護法から「経済条項(※)」をなくそうとした議員たちも、水子供養の実践者たちも、中絶を「母の罪」として女性たちを糾弾し、中絶はタブーになっていきました。さらに1990年代に入ると「少子化」が社会問題化し、2000年代に入ると性教育バッシングが起こり、中絶の必要性を主張しにくい状況が続いてきたのです。

※人工妊娠中絶を行うには次の2つのいずれかの条件を満たす必要があり、「経済条項」は【1】のことを指す。
【1】妊娠の継続または分娩が、身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの。
【2】暴行もしくは脅迫によって、または、抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの。
現状、99.9%近くの人工妊娠中絶が経済条項を理由に行われている。
(参考:日本医師会HPの「医の倫理の基礎知識 2018年版」