2022.01.19

「芥川賞作品」に読む価値はあるか? “特権的”に注目される文学賞である理由

半年に一度発表され、メディアを巻き込み注目される芥川賞。

第1回受賞作の石川達三『蒼氓』から石原慎太郎『太陽の季節』、小川洋子『妊娠カレンダー』、絲山秋子『沖で待つ』そして宇佐見りん『推し、燃ゆ』まで23作品を厳選して論じた『教養としての芥川賞』(青弓社)が刊行された。

著者である文芸評論家の重里徹也・聖徳大学教授と、日本文学研究者の助川幸逸郎・岐阜女子大学教授に、芥川賞に選ばれる作品にはどんな特徴があり、今も残っている作品、今の学生に読まれている作品はどれかを訊いた。

[PHOTO]iStock
 

芥川賞が特権的に注目される文学賞になっている背景とは?

――『教養としての芥川賞』の見解をまとめると、数ある文学賞のなかでも芥川賞が格別注目される賞になっている理由のひとつは、少なくない受賞作がその時代の時事風俗を反映しているジャーナリスティックな要素があり、同時に生活に根ざしている人間や働く人のメンタリティが描けていること――言いかえると文壇外部の一般人が読んでも理解できるある種わかりやすい面を持つ作品が比較的選ばれているからだ、ということですよね。

重里 芥川賞の選考について運営している文藝春秋ができるのは、選考委員と候補作を決めることまでです。例外はありますが、選考委員には売れた作品をひとつかふたつは持っている作家を選びがちな傾向がある。逆に、たとえば言語実験的な難しい作品を書く作家を選考委員にすることについては、やや慎重な印象を受けます。また、候補作に関しては文春の社員が5、6作に絞るわけですが、文芸誌に発表された候補対象となる新鋭の小説を網羅的に検討している感じはします。

そのあとは選考委員がひとりひとり自由に、自分が好きな作品を選んでいる。そこで表立って「時流、風俗を考えて選んだ」と公言する作家はいないでしょう。

――選考委員ひとりひとりが意識して選んでいるわけではないけれども、受賞作を見ると結果、そういう傾向がある、と。

助川 私は出版関係者からはもっと生々しい話を耳にしていますが(笑)、まず文春として「受賞作を出したい」ことは間違いない。受賞作が出るかどうかで受賞作と選評を掲載する雑誌「文藝春秋」の書店での売れ行きが違ってきますから。

選考基準に関して言えば、近年ある方が書いた小説に対して「何度候補作に挙げてこようが、絶対にこいつにはやらない」という雰囲気が複数の選考委員の選評から感じられました。

芥川賞は実作者が選ぶ賞ですから、いくら話題性があっても創作の世界へのリスペクトが感じられない人間には与えたくないという思惑が働く。これが村上龍が芥川賞を取れて村上春樹が取れなかったという違いにもつながっている。当時の村上春樹は作風にしろ本人の佇まいにしろ「こいつはいったいどこに行くんだ?」といぶかしく思われていたわけです。

このことを別の角度から言葉にすると、純文学の世界には、私小説的リアリズムに立脚した価値観が根強くあり、それに合致しない作風の作品がどれほど入ってきても、この価値観とは根っこの部分で手が切れないので、芥川賞の選考委員も、そういう私小説リアリズム的な価値観を引きずっている部分がある、ということです。だから、そこから大きく逸脱した作品を評価しきれないケースも稀に見られる。その象徴的な例が村上春樹だったのではないかと思います。

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