2021.12.30
# ドラマ

大晦日も放送…!大人気『孤独のグルメ』が描く「オルタナティブなおじさん」の魅力

井之頭五郎の「新しさ」

こうした「心の声」の数々を聞いていて思うのは、「グルメ」を名に冠したり、美食を扱ったりするコンテンツにおいて、五郎さんのような、それなりに社会的地位がありそうなスーツ姿の中年男性が「素直な感想」を発し続けるというシーンは、じつはあまりなかったのではないか、ということです。

「グルメ」を扱うコンテンツにおけるスーツ姿の中年男性の「食べた後の反応」として典型的に思い浮かぶのは、「この食材は…」「この調理法は…」「この肉の産地は…」といった、いわば「評論的なもの」である気がします。「おいしい」「最高だ」「うまい」といった身体的・肉感的で素朴な言葉は、出てきたとしても後に続く評論の前振りであることが多く、彼らのセリフは最終的には、どちらかというと知識に基づくもの、やや記号的なものに落ち着いていたような気がします(もちろん例外はありますが)。

〔PHOTO〕iStock
 

言い換えると、これまでの社会においては「物事の評価を定める」役を求められがちだった(社会的地位が高そうな)おじさんは、「評論家的役割」を与えられることが多く、ただただ「うまい!」と素朴な感想を述べ続けることを、半ば禁じられてきたと言えるかもしれません。美食コンテンツにおけるスーツおじさんたちは食事の後に、どこかの段階で「評論」をしなければならないプレッシャーにさらされていたということです。

そうしたことを念頭に置くと、スーツを着て、ビジネスにいそしむ中年男性である五郎さんが、最後までほとんど「評論」をすることなく、食事についての素直な気持ちを口にするということ、そしてそうしたシーンを中心的に描く『孤独のグルメ』という作品が大人気を博しているという事態は、じつは(そうしたタイプの)「おじさん」のイメージに新たな一面を加える側面があったのではないかと思えてきます。

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