正恩氏は「2021年は厳しい難関の中で社会主義建設の全面的発展への壮大な変化の序幕を開いた偉大な勝利の年である」と総評したが、同年6月の会議で「食糧事情が緊張している」と認めたのは正恩氏その人だった。
農業分野では特別に議題を設けたが、正恩氏は「全ての農業勤労者を労働党時代にふさわしい革命的な農業勤労者に改造して国の食糧問題を完全に解決」と語るばかりで、北朝鮮農業の課題とされる農機具の近代化、肥料増産、風水害対策などへの説明はなかった。
韓国統一研究院の金昔珍上席研究員は「制裁が続く限り、生産設備の保守・更新に必要な資材が入ってこない。自力更生路線だけでは、徐々に生産量は落ちていくだろう」と語る。
北朝鮮は外交路線の転換を迫られているはずだ。朝鮮中央通信は、正恩氏が中央委総会で「南北関係と対外活動部門で堅持すべき原則的問題と一連の戦術的方向を示した」と伝えたが、詳細な内容は明らかにしなかった。米国のバイデン政権が制裁緩和に応じるという道筋を描けないからだろう。新型コロナのため、正恩氏が自由に外遊できないという事情もあったのかもしれない。
「権威は金正恩氏に集中し、責任は部下に」
治世10年を迎えた金正恩体制は八方塞がりだ。そんななか、今回の中央委総会でも改めて浮き彫りになったのが、「権威は正恩氏に集中し、責任は部下に分散させる」というやり方だった。
1月1日に配信された朝鮮中央通信の写真をみると、政治局員ら幹部が中央舞台のひな壇に2列に並んだ。前列は5人いる政治局常務委員で、なかでも正恩氏の机だけ、ひときわ大きく、独立したつくりになっていた。

正恩氏が指示を飛ばしているときは、参加者は一心不乱にメモを取る。党幹部だった脱北者らは一様に「最高指導者に対する忠誠心を示すためだ」と語る。