2022.01.02
# 北朝鮮

2022年も八方塞がり続く金正恩…その背後にいる「赤い貴族」たちの存在

権威は集中、責任は分散、権力はどこに
牧野 愛博 プロフィール

テレビなどを通じてメモを取る幹部たちの姿を見た北朝鮮市民は、最高指導者の権威を肌で感じることになる。

総会で拍手する姿をみても、他の参加者がみな、両手を顔の高さまで上げて、熱狂的に両手を叩いているのに対し、正恩氏だけは祖父や父がそうだったように、腰の位置で両手を貝が閉じるようなしぐさでゆっくり動かす。いずれも、「宣伝扇動の手段」として、会議を通じて、正恩氏の権威を高めることに使われる。

北朝鮮「わが民族同士」のホームページより

北朝鮮当局は10年前から正恩氏の権威を高めるのに躍起になってきた。公正な選挙制度が存在しない北朝鮮では、当局の正統性を国民に説明する根拠は、「祖国を解放した金日成の血縁者(白頭山血統)をトップに掲げている」という事実しかないからだ。

正恩氏が公式に登場した2010年9月の党代表者会後には「金正恩同志の優越性」とする10項目の暗記を市民に命じた。10項目のうちの1つは「百発百中の射撃術を持つ天下第1の射撃手」というもので、「正恩氏が2010年5月の射撃大会で、1秒当たり3発の射撃を行い、100メートル先につり下げた電球とその後ろに立てたピンなどの目標物計20個に全て命中させた」という関連の逸話も準備した。

 

北朝鮮は「スーパーマン伝説」だけでは足りないとみたのか、次に「愛民政治」と呼ばれる、スキンシップや素朴な指導者像を追求するキャンペーンを張った。

2018年7月、正恩氏は麦わら帽子をかぶって現地指導を行った。泥がズボンについても構わずに視察を続けたこともある。視察先では、兵士や労働者が金正恩氏に腕を絡ませて写真に収まった。こうした演出は、実妹の金与正党副部長の指導だとされる。

2017年1月の新年のあいさつでは「いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られる」と語った。20年10月の軍事パレードでは「皆さんは私に信頼を寄せてくれたが、いつも満足に応えられず、本当に申し訳なく思っている」と語り、涙を流す様子もみせた。常に、新しい演出を繰り出すところに、「最高指導者から権威がなくなったら、体制はおしまいだ」(元党幹部)という切迫感が見て取れる。

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