《三日月ロック》以降のスピッツのアルバムは、すべて亀田がプロデュースをしている。
ここから、アルバムは《スーベニア》(2005年)、《さざなみCD》(2007年)、《とげまる》(2010年)と続いていく。これらのアルバムでは、ストリングスやキーボードの使用頻度が増え、ミドルテンポのシングル曲(〈正夢〉〈ルキンフォー〉〈魔法のコトバ〉〈若葉〉など)も多く発表している。
《三日月ロック》のサウンドをより日本のポップス形式に近づけていくのがこの時期だ。〈甘ったれクリーチャー〉〈Na・de・Na・de ボーイ〉〈探検隊〉〈幻のドラゴン〉といったギターが激しくなるロックソングもあれば、〈優しくなりたいな〉〈P〉のようなアコースティック編成の落ち着いた楽曲もある。〈ナンプラー日和〉では琉球音楽、〈自転車〉ではレゲエなど、幅広いジャンルと混交した音楽もある。
後出ミュージシャンからの影響
もう一点、指摘しておくべきは、後出のミュージシャンからの影響だろう。スピッツはもちろん多くのミュージシャンに影響を与えているが、同時に後にデビューしたバンドやソングライターから影響を受けてもいる。たとえば、〈さわって・変わって〉の冒頭の歌詞、「天神駅の改札口で 君のよれた笑顔」は、椎名林檎が具体的な土地名を歌詞に入れているのに感銘を受けて、「天神駅」という言葉を選択したと草野マサムネは語っている〈※1〉。
〈さわって・変わって〉は、半音ずつ下がっていくギターのリフといい、クラシカルなキーボードのフレーズといい、サウンド面でも椎名林檎との近似を感じさせる楽曲だ。