「ストーリー」がなくなった
音楽ショーとしては見応えというか、聴きどころはあった。
前半は私にとっては知らない「いまどきのミュージシャン」が続いたが、それはそれで、「こういう人がいるのか」「こんな歌が人気があるのか」という興味で、見ることはできた。
別にいまさら五木ひろしや森進一を出さなくてもいいとは思う。誰も選んでも、選ばなくても批判は出るので、それは問わない。
問題は演出というか番組構成だ。
2020年はコロナ禍で観客を入れずにNHKホールで歌合戦が行なわれた。
拍手と歓声がないことを逆手に取るように、また密を避けるためもあって、余計な演出がなく、歌を聴かせることに徹底していた。
観客なしでの「紅白」は、1945年の「紅白音楽試合」以来のことだ(観客が入るのは1951年の「第一回」から)。その意味では、2020年は原点に帰ったとも言えた。
だが、2021年は観客を中途半端な形で入れた。会場もNHKホールが改修されるので、東京フォーラムに移った。
何事も、中途半端はよくない。
会場はまったく盛り上がっていないのに、司会者だけが盛り上がっていた。
最初はアイドルたちが活躍し、だんだんにベテラン、大御所が出てくるという、かつての紅白にあった「ストーリー」もなくなり、山場がない。人気アーティストが次から次へと出て歌うというだけでは、民放の音楽フェス番組と同じだ。
だが「ストーリー」を求めることそのものが、もう古いのかもしれない。
誰が何番目に出るかも事前に発表されているので(昔は、誰がトリなのかも視聴者には知らされていなかった)、自分の好きなミュージシャンが出るときだけ見た人も多いだろう。ストーリーがないと、そうなってしまう。
それにしても、この大型番組は、スタッフの名前が出ないのは不可解だ。蛍の光の間に流せばいいのに。