2022.01.09

民主主義と権威主義、どちらの「社会経済パフォーマンス」が上なのか? データ分析が示す驚きの結果

東島 雅昌 プロフィール

民主主義は公衆衛生を改善するのか?

民主主義と経済成長の議論は、民主主義の水平的アカウンタビリティよりも垂直的アカウンタビリティの方が、経済パフォーマンスに負の影響をもたらすかもしれない、という可能性を示唆していたと考えることができるかもしれない。しかしながら、公正で自由な選挙の存在、そして選挙をつうじて政治家が大衆に目を向けることは、本当に大衆へおもねる「衆愚政治」をもたらすのだろうか。

社会政策や公共政策をつうじて国民の健康を守るのは、政府の重要な役割の一つである。お金持ちは自らの財力をつうじて十分な医療や福祉を享受できるが、貧しい人々は自らの力で必要な社会福祉を受けられない。公正で自由な選挙の導入は、選挙での勝利を望む政治家に、少数派のお金持ちよりも多数派の貧しい人々へ耳を傾けやすくする。その結果、貧しい人々の健康を向上させる政策が推進されて医療が改善し、人々の社会厚生が向上するだろう。

言い換えれば、垂直的アカウンタビリティは、公衆衛生という人々の根本的な政策ニーズへの政治家の真摯な対応を高める可能性がある。

このことを実証的に確かめるために、早稲田大学の安中進講師と筆者は、172カ国の1800年から2015年までをカバーする乳幼児死亡率のパネル・データを用いて、公正な選挙の導入が公衆衛生の改善にどれだけ寄与するのかを分析した (Annaka and Higashijima 2021)。

〔PHOTO〕iStock
 

分析結果が示唆するのは、政府は民主化後直ちに社会政策や公共政策を貧しい人々寄りにシフトさせ、そうした政策変更は、公衆衛生の向上という政策帰結に長い持続力をもって正の効果をもつというものだ。すなわち、政府は自由選挙の導入直後には、公共政策をより広範な人々をターゲットにした内容へと変更し、さらにそうした公共政策の変更は、その後の乳幼児死亡率の漸進的改善に貢献していた。逆に、自由で公正な選挙の実施が妨げられたとき、そうした権威主義化は徐々に乳幼児死亡率に負の影響をもたらしていた

また、テキサス大学オースティン校のゲリング教授らの研究グループがおこなった調査では、公正な選挙の実施が継続し、したがって民主主義が長く持続すればするほど、乳幼児死亡率の減少により大きく寄与することが示されている (Gerring et al. 2020)。これらのデータ分析が示唆するのは、垂直的アカウンタビリティの導入とその持続によって、政治家が社会的弱者の政策ニーズを汲み取るようになり、結果として多くの市民の公衆衛生が顕著に改善する傾向にあることだ。

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