2022.01.09

民主主義と権威主義、どちらの「社会経済パフォーマンス」が上なのか? データ分析が示す驚きの結果

東島 雅昌 プロフィール

民主主義は富の不平等を減らすのか?

ここまでみてきた様々な社会経済的帰結に関する実証分析の知見は、民主主義の発展がもたらす正の効果に軍配を上げるものであった。では、民主主義体制は万能であるといえるのであろうか。残念ながら、必ずしもそうであるとはいえない。いくつかの社会経済的帰結に関して、民主主義のメカニズムでは不十分なことが示唆されている。

最も深刻な事象は、富の不平等である。多数派である貧しい人々に寛容な政策が民主主義のもとで取られやすいのであれば、民主主義は富裕層への課税や低所得者への再分配をつうじて富の平準化を促進すると期待できる。しかし、民主主義と経済不平等の実証分析は頑健なかたちでそのような傾向を見出していない。

ニューヨーク大学のスタサヴェージ教授とスタンフォード大学のシーヴ教授は、富の平準化をもたらす上で富裕層に課税するという政策は理にかなっているが、現代では、たとえ低所得者であっても富裕層への課税が公平かどうかをめぐって意見の相違があるため、十分な政策支持が得られない事実を指摘する。

また、米国など経済不平等が高まった国々では、富裕層が豊富な資金を背景に政党や政治家にロビー活動をおこなう結果、高所得の有権者に有利な税制が維持されやすい (Stasavage and Scheve 2016)。有権者間の公正性認識の断絶や富裕層のロビー活動が原因となり富の不平等が維持・強化されているのだとすれば、民主主義に内在する2次元のアカウンタビリティをいくら高めたとしても、解決できる問題ではない。

 

民主主義の「意図せざる帰結」: 民主主義と金融危機

また、民主主義を発展させることで我々が警戒しなければならない「意図せざる帰結」もある。その一つが経済危機に対する政府の対応である。

トロント大学のリプシー准教授は、1800年から2009 年をカバーする69カ国のパネル・データを用いて、政治体制が金融危機発生に及ぼす影響を調査している。彼の分析は、民主主義が発達した国であるほど、金融危機、つまり銀行の閉鎖・合併・国有化につながる取り付け騒ぎに代表される深刻な信用逼迫が起こりやすいことを示す。そして、水平的アカウンタビリティが強く迅速な政策対応が遅れることが、銀行危機を生み出すメカニズムの1つとなっていると主張する (Lipscy 2018)。

また、カーネギーメロン大学のハンセン氏の研究は、低インフレの政策選好をもつ中央銀行が高い独立性をもつとき、銀行危機後の失業率が高止まりし、さらには国内銀行信用や株式時価総額をも引き下げてしまうことを示す (Hansen 2021)。これらの分析結果は、民主主義の権力の抑制と均衡の原理の負の側面は、とくに危機への迅速な対応が必要となる段階では、如実に現れてしまうかもしれないことを示唆する。

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