衝撃の結末…!17年間逃亡を続けた猟奇殺人犯がコロナ禍に劇的逮捕された「全真相」

現代ビジネス編集部

「赤手配」の打診

翌13日、私たちは、同じく日本国大使館の会議室を借りて、ICPOプレトリアの最高責任者やその上級幹部たちと交渉することになった。そして、その場には、前日の協議と夜の飲食に同席した国家警察の幹部が立ち会ってくれた。

まず、前日の法務省との協議結果について国家警察幹部がICPOプレトリアに対して説明した後、私たちから事件の概要と逃亡被疑者の所在について説明した。また、当初、ジョセフの取調べも要請する方針でいたが、ジョセフから松井らに情報が漏れる可能性があるため保留にすることを伝えた。

松井知行容疑者(2002年撮影)=警視庁ホームページから

これに対するICPOプレトリアの回答は、「ジョセフの取調べは、正式に仮拘禁と身柄引渡しの要請を受理した段階で、松井と紙谷の身柄拘束と併行して実施する。証拠品の押収も併せて要請してくれれば、松井と紙谷の家を捜索してパソコン等の証拠品を押収する。また、松井を訪ね、大金を持って日本から渡航してくる人物の出入国についても調べておく」という頼もしいものだった。

その上で、「ところで、松井らのICPO手配は青手配(BLUE NOTICE)だが、赤手配(RED NOTICE)にしてくれないか。そうすれば国境や周辺国で発見した場合に、身柄の拘束ができる」とリクエストされた。

赤手配とは、「引渡しまたは同等の法的措置を目的として、被手配者の所在の特定及び身柄の拘束を求める手配」であったが、松井らは、青手配で、「事件に関連のある人物の人定、その所在地又は行動に関する情報を収集する手配」となり、拘束力に欠けるものだった。

このリクエストに対し、警察庁は、「相互主義の観点から、日本では、赤手配書の発行はしていない」という苦しい回答となった。

以後、ICPO側から細かな質問が続いたが、最終的に、「南アフリカは、正式に仮拘禁と身柄引渡しの要請を受理すれば、被疑者2名の拘束に向けて迅速に対応する」と説明した。結びに、「今後も両国の良好な関係を維持し、緊密に連携を取り合い、2名の身柄拘束に向けて全面的に協力していきたい」という最高責任者の発言を聞き、私たちは勇気づけられた。

この夜は、多国籍の板前さんたちが握る寿司店で、ICPOプレトリアの幹部と身柄引渡しに向けた協議の延長戦が進められた。幹部たちは一様に、「心配するな。松井と紙谷の身柄は日本に引き渡されるよ」などと、私たちが喜びそうな発言をしてくれた。私たちは、笑顔で「ありがとうございます。よろしくお願いします」と答えていたものの、「本当かな。そんなに簡単にいくのかな」と、その真意を疑ってしまい、本心から喜ぶことはできなかった。

翌14日は、南アフリカ外務省での協議となった。敵陣に乗り込んでの協議となるため、外務省側は関係分野のスタッフを総動員して対応した。

冒頭、これまでと同様に日本側から事件概要と逃亡被疑者の現況や身柄引渡しについて説明した。関係機関と協議をするのも3日目となるため、私たちはどこに重点を置いて説明すべきか体得できていた。それは、後にも先にも「死刑制度」についてである。今振り返れば、パワーポイントを使って合理的に説明すればよかったが、このころはその発想や余裕はなく紙ベースだった。

まず、外務省の日本・韓国・中央アジア担当課長が口火を切った。

「日本のプレゼンテーションを聞いて、事件概要と要請事項について非常によく理解できた。南アフリカ外務省としては、積極的に支援していきたい。ただし、問題点がある。それは死刑制度である。日本では、この種犯罪になると、死刑があるのではないのか」

それを聞いた外務省法律顧問が日本を擁護する発言をした。

「この事件では、共犯者が多数捕まっているが、その中で最高刑は懲役16年である。死刑になる可能性は低いのではないのか」

これに日本側は追加説明をした。

「日本における殺人罪の最高刑は死刑であり、それが身柄引渡しの大きな障害になることは承知している。この点について、日本では、法務省と協議して、被疑者らを起訴した場合、検察官は死刑を求刑しない方針を確認している」

 

すると、日本・韓国・中央アジア担当課長が頷いて語り始めた。

「死刑にならない保証があるならば、身柄引渡し要請は、日本国大使館を通じて口上書をもって外務省に送付していただきたい。身柄引渡しは、法務省の管轄事項であるから、外務省の関係部署で要請書をチェックした後、法務省に転送し、ICPO、入国管理局等の関係機関とも協議して、日本からの要請を受諾するか否か決定する。結果については、日本国大使館とICPO東京に対して連絡する。南アフリカ外務省が正式に『仮拘禁・身柄引渡し要請書』を受理してから、正式に受諾の可否を決定するまで2~3ヵ月程度を要する」

以上を語った後、日本・韓国・中央アジア担当課長は、「要請書には、死刑を求刑しないことを確実に記載してくれよ」と付け加えた。

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