「僕は離婚をするつもりはない」
隼人さんは、不貞の事実を知ったことを元妻に告げたうえで、あらためて宣言した。
「僕は離婚をするつもりはないよ」
いくら元妻が有責であっても、いまこの状況で離婚をすれば、隼人さんはおそらく子どもの親権を取れない。母性優先の原則があるうえ、単身赴任中の身だからだ。離婚をしたら元妻は、子どもを連れて相手と再婚するかもしれない。
「子どもの父親が、あのクズみたいな男に!」
それだけは耐えられないと、隼人さんは思った。
一方、有責配偶者側からの離婚請求は認められない。不貞が明るみに出た以上、元妻から離婚を申し出ることはできない。子どもを連れて離婚するという道が閉ざされたことを、元妻は理解したようだ。
「家を出て行きます」と元妻が言ったのは、それから数日後のことだった。
夫婦関係は完全に破綻し、改善の見込みはない。心の支えだった相手とも別れることになった。恨みを抱えながら日常を続けていく自信がなかったのだろうと、元妻の気持ちを想像する。
「子どもを置いていくなら」と隼人さんは答えた。もう引き止めても無駄だと思った。

間もなく離婚が成立。財産分与をし、元妻から養育費として1万5000円もらうことにした。お金が必要というよりは、元妻に子どもとかかわり続けてほしかった。
「面会交流も、一応月1回と決めましたが、好きなだけ自由に会っていいと言いました。子どもから母親を奪うわけにはいかないと思ったからです」