富士山に8つある峰のうち、最高峰の剣ヶ峰にあった富士山測候所(現在の富士山特別地域気象観測所)へ設置されていた富士山レーダーのことは、ご存知の方も多いと思います。また、長野県の霧ヶ峰の主峰、車山山頂の長野気象レーダーも、訪れたことがあればすぐに思い出される、同山のシンボル的存在です。
この気象レーダー、現在でも気象観測のツールとして、とても重要なものですが、その観測のしくみはどのようなものなのでしょうか? まあるいドームに隠された役割としくみ、解説してくださったのは、気象コンパス・代表の古川武彦さんと、サイエンスライターの大木勇人さんです。
気象レーダー観測網
戦後、富士山に設置された気象レーダーは、気象衛星がまだ導入されないその時代に、台風の接近を知るために大きな役割を果たすようになりました。また、台風に限らず、天気予報において今どこで激しい雨が降っているか、雨域がどのように動いているかは、注意報や警報を出す際に極めて重要な情報です。気象レーダーは、このような降水状況をリアルタイムで把握する手段として、不可欠な役割をもっています。

日本の気象レーダー観測網は、昭和29年(1954) に大阪に設置されたのを皮切りに全国への展開が進められ、全国20か所で運用されています(2021年現在)。気象レーダーは「アメダス」や、気象衛星「ひまわり」とともに、今でも気象観測ツールの「三種の神器」の一角を占めているといっても過言ではありません。
気象レーダー観測の原理
気象レーダーは、ドーム内のパラボラアンテナから電波(ビーム)照射しながら、そのパラボラアンテナがある高度角で360度ぐるぐると回転して、雨雲を観測します。アンテナを覆うドームは、レーダー(radar)とドーム(dome)からの造語で「レドーム」とも呼ばれ、風雨や風雪、太陽光などからアンテナを保護し、観測に影響が出ることを防いでいます。
観測は、電波の反射を利用しています。光を鏡に当てると反射してきます。電波も光と同じ電磁波の仲間であり、気象レーダーの場合は、鏡に相当するのは空気中に浮かんでいる雨粒あるいは雪粒です。
パラボラアンテナが指向する方角に電波を発射し、その経路上に存在する降水粒子(雨滴・雪片・雹・あられ)によって反射(正確には散乱)され、戻ってきた電波(エコー)をパラボラアンテナが受信し、目標物(降水粒子)をとらえます。
なお、パラボラアンテナは前述のドーム(レドーム)によって保護されていますが、ドームに雨水などによって水の膜がはると受信電波が減衰する、といった影響が出ることもあり、レーダー観測にはそうした注意も必要となります。

パラボラアンテナを360 度回転させたり、アンテナの仰角を変えたりすることで高度方向の雨雲の広がりをとらえます。利用される電波は、マイクロ波領域のものです。直進性が優れており、また鋭いビームが得られるため、高い空間分解能が得られます。
方位や高度はアンテナの仰角からわかりますが、雨雲との距離や降水の強度を知るには、それでは不十分です。そこで、戻ってきた電波(エコー)から3つの情報を得られるようにしています。それは、
- エコーの往復時間
- エコーの強さ
- エコーの位相(電波の谷と山)
の変化の3つです。ひとつずつ理解していきましょう。