突然医師から電話が

その1週間後、路上で突然、携帯電話が鳴った。
出ると、かけてきたのは、何と、産科クリニックの医師だった。

医師みずからが電話をかけてくるような体験は初めてだった大竹さんは、それだけで驚いた。そして、思い当たる理由はひとつしかない。
「医師はクアトロ検査のデータが悪いと言い、すぐに羊水検査の予約の話になりました。そこから一気に、私のメンタルは崩れたわけです」
まだ「確率が高い」と言われただけなのに、大竹さんは取り乱し、その日から泣いてばかりいる状態になってしまった。

「このまま検査が進んで、赤ちゃんに障害があったらどうすればいいんだろうと思うと、たまらなくなりました。自分が怖いと思っている『障害』とはなにかもわからない状態でしたが、ともかく、私は、この時初めて出生前検査を受けることの重みが初めてわかったんです」

すぐに産科クリニックに受診すると、大竹さんは、クアトロ検査の結果を受け取った。大竹さんの赤ちゃんがダウン症候群である確率は、186分の1と記されていた。

その数値が高いのかどうか、それは大竹さんにはわからなかった。ただ、クリニックの院長の説明によるとこの検査は295分の1が基準値だという。186分の1はそれより高いし、医師もこの数値なら羊水検査を受けるものだという態度だったので、大竹さんは、迷うことなく羊水検査の申込書を記入した。

大竹さんが今も保存しているクアトロ検査の報告。186分の1は自分の年齢(当時42歳)の平均値50分の1より低かったが、基準値295分の1よりは高かった 写真提供/大竹麻美
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羊水検査は、その4日後だった。
この間、通い始めてまだ日が浅いクリニックで羊水検査を受けることに不安を覚え、インターネットでもっと専門性が高そうな他の検査施設を探したこともあった。しかし、心が動いたところに一ヵ所電話をしてみると予約がとれなかったので、結局は、かかっていたクリニックで検査を受けることにした。

大竹さんは検査用ベッドに横になってからも泣き続けていた。

赤ちゃんの位置を超音波検査で見ながら穿刺をおこなうが、一度目は位置が定まらず、再度、穿刺をおこなうことになった。
「その時、赤ちゃんが怖くて逃げてるんだ、と思いました」

本当に短い時間だけれど、大竹さんは、この刹那のことが忘れられたくても忘れられない。
「『先生、もういいです、やめておきます!』と言いたい気持ちがこみ上げました。それでも、そうは言えなかったことが、今から考えると一生の不覚です」
緊張した空気を和らげようと、検査を手伝っていた誰かが、大竹さんに「赤ちゃん、よく動いて元気ですねえ」と明るく話しかけていたその記憶が、また辛い。

二度目の穿刺は成功し、検査は、ひとまず無事に終わった。医師は「きれいな羊水採れましたよ」と言って、採れた羊水を大竹さんに見せた。

その時は何も起きず、無事に帰宅した大竹さん。体調の異変に気づいたのは、次の朝のことだった。

◇羊水検査をした翌日に感じた異常。大竹さんがどのように病院に連絡を取ったのか、そしてどんな悲しい別れとなってしまったのか。別の専門医の意見と共に、後編「羊水検査のあとの流産…41歳の母が感じた「出生前検査」判断の意味」にてその後の経過を詳しくお伝えする。