また、‘05年の発見は「ペタキン」にとってはギリギリの時期でした。「ペタキン」は卵をドブガイという二枚貝に産みつけるので、繁殖するにはドブガイの存在が必須なのですが、’05年当時、池のドブガイは、ほとんどが寿命間近の7~8歳のものしかいなかったのです。その数は’07年の調査では398匹でしたが、’12年にはわずかに1匹。「ペタキン」はドブガイがいなければ繁殖できないので、発見のタイミングが少しでも遅かったら、間に合わなかったかもしれません。
そうやって、たくさんの偶然が重なって一つの固有な生物が発見され、私としては「もうこれは宿命だな」と。そんな気持ちで現在、保護・繁殖活動に取り組んでいます。
人の営みが「ペタキン」を守った
今の活動としては、漫画『なないろ探訪記』に描かれているように繁殖地というか生息地になるような、ため池を各地に作って「ペタキン」の繁殖をしているのですが、「ペタキン」は奈良で生き延びてきた固有の個体群ということで、地元の方々にもご協力いただいています。
里親になってもらって、池で飼ってもらったり水槽で飼ってもらったりというような形で、いくつかの企業にはCSR活動の一環として、池の整備の協力なども実施してもらっています。
「ペタキン」はドブガイという二枚貝を利用して繁殖するという話をしましたが、ドブガイはドブガイでヨシノボリというハゼ科の魚を利用しています。ヨシノボリのヒレやエラに幼生を付着させ、ヨシノボリの体液を吸って成長。親が行ける範囲よりも遠くに連れていってもらって、そこで成体となります。
つまり、「ペタキン」を繁殖させるには、ドブガイがいるだけでは足りなくて、ドブガイが繁殖するためのヨシノボリの存在も必要なのです。それは「ペタキン」が住むのに適した生態系が必要ということ。「ペタキン」を繁殖させるだけなら、水槽で大事に飼ったり、オスの精子を凍結保存しておいて必要な時に取り出したりすれば済むのですが、そういうことではなくて、大事なのは生態系を作ることなのです。