2022.01.17
# ロシア

カザフスタン騒乱は結局、前大統領の国家私物化親族の謀略だった

周縁不安定化はプーチンに吉か凶か
河東 哲夫 プロフィール

そもそもカザフスタンという国

カザフスタンの領土面積は日本の約7倍。その大部分は草原か砂漠。南東部に大河シルダリア沿岸の農耕地帯がある。人口は約1880万人で、昔から遊牧民族が行き来した地帯。ソ連初期、スターリンに1つの行政区画としてまとめられて初めて、「カザフスタン(「スタン」は土地、領域という意味)」というアイデンティティーが形成された。

もっともカザフ人と言っても、多数の民族が混血した結果であり、中央アジアの中では最も日本人に近い外貌を持つ人たちから、大柄で茫洋としたいかにも大陸的な人たちまで様々である。

カザフスタン北部は石炭に恵まれており、ソ連の時代にはロシア人が大勢入り込んで製鉄、発電、紡績などの工業化を実現したし、フルシチョフの時代には大学生も動員して農地の大拡張を行い、トウモロコシ、小麦の増産をはかった。

だから今でもロシア系は人口の18 %もいるし(カザフ人は69%)、カザフ人にとってロシアは文明の地、モスクワ留学は登竜門、日本人に対しては「自分たちは欧州文明に属する」と言って差をつけたつもりになっている。この「欧州」というのは、彼らにとってはロシアのことなのだ。

中央アジア5カ国のうち、カザフスタンは人口ではウズベキスタンの3400万人に大きく譲る。しかしGDPでは約1700億ドルで、ダントツの1位なのだ。これは一つに、原油・ウラン・非鉄といった資源に恵まれ、これを独立後の30年間、欧米中露資本に開発させて、その上がりを転がして生きてきたことによる。

政府は長年、製造業、中小企業振興の旗を振ってきたが、効はほとんどあげていない。一帯一路を掲げる中国は、原油採掘には大きく参与しているものの、工業面ではほとんど何もしていない。この国では地道に稼ぐより、利権にありつくか、金融・流通で稼ぐ方が楽なのだ。

 

今回デモの原因は、自動車燃料に使われるLNG(液化天然ガス)の価格上昇だと言われるが、実はLNGが原因ではない。元々、カザフスタンは天然ガス輸出では世界で20位以下でしかない。

カザフスタンで愛用されているのは、原油生産に伴って噴出する随伴ガスを液化したLPG(液化石油ガス)で、これは(今回2倍に値上がりした後でも)1リットル30円ほど。安価だから愛用されていて、生産地でデモが最初に起きたジャナオーゼン周辺では車の90%がこれを使っている。車の多くが集中しているアルマトイでも、LPGが大きな意味を持っている。

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