2022.01.17
# ロシア

カザフスタン騒乱は結局、前大統領の国家私物化親族の謀略だった

周縁不安定化はプーチンに吉か凶か
河東 哲夫 プロフィール

生活要求が政治暴動に転化

今回のデモは、西部のジャナオーゼンという都市で起きている。ここは石油産業の拠点なのだが、地元の原油生産が減少して失業が問題となってきた。2011年にも労働者の処遇をめぐって、10名以上の死者を出す暴動が起きている。今回は、前述のように、LPGの値上げをめぐってデモが起きた。LPGは当地産でもある。

このLPGの価格は国の補助金で安価に抑えられてきた。しかし2019年から、LPG価格は漸次「電子入札」で決めることとされ、この1月から全量が電子入札で決まることとなった。これとともに補助金が撤廃されて、価格が1リットル約28円と2倍に跳ね上がったことが、今回デモの引き金を引いたのである。

そしてデモに対する政府の動きが稚拙だった。価格補助金の復活を決めたのはいいが、それを180日間と期限を切っただけでなく、都市毎に差をつけたのである。そして5日、デモ隊の要求に応える形でマーミン首相をあっさり更迭したのも問題だが、その後任には第一副首相を昇格させただけ、閣僚はほぼ全員留任という、大衆を小ばかにした措置を取って、デモ隊をかえって刺激してしまったのだ。

と、ここまでは自然発生的な抗議行動に見えたのが、5日アルマトイではデモ隊に「あの老人(ナザルバエフのことと思われた)は失せろ!」という政治的なスローガンが聞かれるようになる。同時にどこから手に入れたのかわからない武器を持った一団、そして日当で動員されたと思われる屈強な青年たちがデモに加わり暴動化した、と報道されている。

そして多くの目撃者が指摘しているのは、ここでカザフスタンの公安は動かなかったどころか、アルマトイ空港の警備を解除し、叛徒が占拠しやすいようにさせた、ということである。

 

こうした中、トカエフ大統領は5日、国家安全保障会議議長に就任したと発表し、マシモフ国家保安委員会議長を解任、8日には同人を反逆罪の疑いで逮捕して、独房に放り込んでしまう。

マシモフは2016年までは首相を務めた有力者で、一時はナザルバエフの後継者と目されたこともある。そして国家保安委員会はソ連時代のKGBを引き継いだ機関で、国内の情報を握る他、公安のための実力行使部隊も持つという、国家安定のカギを握る機関だ。

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