2022.01.17
# ロシア

カザフスタン騒乱は結局、前大統領の国家私物化親族の謀略だった

周縁不安定化はプーチンに吉か凶か
河東 哲夫 プロフィール

ちらつくナザルバエフ前大統領親族の影

中央アジア関係の報道では定評のあるFerghanaが7日、面白い記事を掲載した。これによると、ナザルバエフの甥2名が今回の事態の裏にいる、というのである。うち1名は国家保安委員会の第一副議長、もう1名は実業家で、トカエフ政権との来るべき勝負の日に備えて私兵を養っていた。それもイスラム過激派を重用していた――というのだ。

ナザルバエフ・カザフスタン前大統領  by Gettyimages

別の報道では、ナザルバエフの娘婿の1人が、今回事態の発端となったLPGを製造する企業を所有し、製品を高値で売れる輸出に回すことで、国内の品薄を招いていた、という報道もある。

荒唐無稽に見えるが、中央アジアでは大いにあり得る。天然資源中心の国では利権が少数の者の手に集中しがちだし、彼らが私兵を抱えて不思議でない。中央アジアでは、ISISに出稼ぎ気分で行っていた青年が出戻って、仕事にあぶれているので、かっこうの私兵要員なのだ。

こうした報道を集めると、次の仮説が成り立つ。

――ナザルバエフの長女ダリガは長年、大統領になりたい野心を隠さないできたが、2020年5月突然トカエフ大統領に、上院議長の座から解任されている。当時、トカエフよりも父親のナザルバエフが何らかの理由で娘を除去したものと思われていた。しかし彼女は昨年秋には、ヌルスルタン(ナザルバエフの名)財団理事長として、意欲的な地方視察を始める。

11月にはナザルバエフの報道官が、「ナザルバエフは与党ヌル・オタン党首の地位をトカエフに譲る決心をした」と発言し、12月末にはトカエフとナザルバエフが連れ立って、サンクト・ペテルブルクでの旧ソ連諸国(NIS)首脳会議に出席している。これはナザルバエフがいよいよ完全引退してトカエフに全てを託す決意を固め、プーチンにそれを伝えに行ったのだ、と解釈できる。

 

これまでナザルバエフの威を借り、国家保安委員会を操り、かつダリガを後継者に推戴することで利権を守ろうとしてきた親族たちは、恐慌を来し、ジャナオーゼンのデモを利用してトカエフ政権を覆そうとした。失敗すると、特別機で国外に逃亡した(6日夜には、アルマトイ近接のキルギス首都ビシケクの空港にナザルバエフの私用ジェットが飛来して、間もなくまた飛び立っている)――というのである。

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