帝京ラグビー部元監督が大切にした「子育て四訓」
主体性の強化という点でいえば、今年箱根駅伝を制した青山学院大学の名前が挙がる。ほかにも、4年ぶり10度目の大学ラグビー日本一に輝いた帝京大学も、学生の主体性を重んじる。
同大学ラグビー部監督を今季限りで勇退した岩出雅之さんの最初の著書『信じて根を張れ!楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる』(小学館)を企画構成したのが、09年に初優勝した翌年だった。4連覇の後にインタビューした際「初優勝したあとから人材育成を意識するようになった」と岩出さんは話していた。当時、教育関係者から聞いた「子育て四訓」が腹に落ちたと話してくれた。
「子育て四訓」とは、いじめが社会問題になり始めた1985年ごろ、「荒れる十代」といわれた子どもたちの育ちを見直そうと、ひとりの教育者がまとめたといわれている。いわく、
一、乳児はしっかり肌を離すな。
一、幼児は肌を離して、手を離すな。
一、少年は手を離して、目を離すな。
一、青年は目を離して、心を離すな。

岩出さんはこの四つの言葉に、自らの指導を重ね合わせる。
「チームには家庭環境も、育ってきた成育歴もバラバラな子たちが集まっている。今の学生は、年齢以上に成熟している者と、未熟な子の違いが大きくなっている。年齢的には全員18歳以上なので青年の部類だけど、中には僕から見れば少年もいて、幼児もいる。その彼らを、どう成長させて、束ねていくか。(四訓は)僕の心情とピッタリ合った」
手を離そうが、目を離そうが、心は常に寄り添うように――そんな気持ちで選手に接した。
胸の中で四訓をそらんじるたびに浮かぶ情景は、国立競技場での歓喜の一瞬だ。
「選手権で優勝すると、みんな抱き合うよね。汗みどろのいかつい学生たちが、ぽろぽろ涙を流しながら互いに抱き合う。乳児はしっかり肌を離すなとありますが、青年も最後は赤ん坊のようになって抱きついてくるのかもしれないね」