産まれた子どもは死産。そして有罪判決

もし、家でひとり産気づき、そのまま流産、死産、出産してしまったら、あなたはどうするだろう? 血だらけ、命からがらのパニック、疲弊状態の中で、すぐに連絡すべき先を探し出し、助けを求めることができるだろうか?

日本人で日本に住んでいれば、119番にかければ救急車が来てくれることはほとんどの人が知っている。でも、言葉もよくわからない外国で起きてしまったらどうだろう?自国に年収の数年分にもなる借金を作ってまで出稼ぎで来日し 、「万が一、妊娠したら強制帰国させられる」と日頃から聞いていたら? あなたは、適切な相手にすぐ相談できるだろうか……。

 

その女性は、ベトナムで生まれた。父親が病で働けないため、一人で家計を支える母を助けようと、ベトナムの平均年収の約5年分にあたる150万円を払い、日本に技能実習生として来日し、ミカン畑で休みなく働いていた。

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彼女はその後、妊娠した。しかし、強制帰国させられる恐怖から誰にも相談できないまま、2020年11月15日の夕方、たった一人で出産した。産まれた子どもは双子で、残念ながら死産だった……。

出産の出血がある中、肉体的・精神的疲労で身も心もボロボロになりながらも、彼女は、子どもの名前を考えた。そして弔いの「ごめんね、私の双子の赤ちゃん!!早く安らかなところに入れますように」というメッセージとともに、タオルに包んだ双子の赤ちゃんを段ボール箱のなかに安置した。その箱は出産に使用した布団のすぐ隣の棚の上に起き、そのまま彼女は疲労困憊の中、血だらけの部屋で亡くなった我が子と共にひと晩を過ごした。

彼女の名前は、レー・ティ・トゥイ・リンさん。リンさんは今、この一連の行動が「死者に対する追悼・敬虔の感情という社会秩序」を乱す「死体遺棄」だとして、1月19日に行われる控訴審の裁判で、一審同様、「有罪判決」を受ける可能性に直面している。

ここまで読んで、「単なる在日外国人の事件」と思った方もいるかもしれない。しかし、この有罪判決は、日本に生きる人たち全員に大きな問題を突きつけている。