コオロギに合う酒とは

発酵と醸造を専門にする山口さんにとって、昆虫食は分野が違うように感じ、なぜ食べてみようと思ったのかと聞いた。
「2050年までに世界の人口が100億人くらいまで増えると、食糧危機問題が現実化して、今のように肉や魚が食べられなくなると言われています。そうなってから、他の選択肢なしに『虫食え』と言われるのは嫌だなあと思いました。どうせ食べるなら楽しく食べたいのに、『これしかないから、これ食え』では、楽しめないですよね。だったら選べるうちに虫も経験して、タンパク質は肉か魚か昆虫か、と考えられるようになればいいなと思って」

伝統的なイナゴや蜂の子から、近年養殖が進むコオロギまで使った、昆虫食のポテンシャルを引き出した一皿(ANTCICADAのコースより)
2種の国産コオロギで出汁を取り、麺やタレ、油もコオロギで開発したラーメン。

『もやしもん』でも、食糧自給についてや、余剰ワインや格付けの問題、日本酒の分類と名称、酒税法の難しさなど、様々な食の課題に言及しているが、山口さんは自身の体験や関係者とのつながりができたことで、食糧生産が環境に与える負荷についても深く考えるようになったという。

(c)石川雅之/講談社『もやしもん』1巻より
(c)石川雅之/講談社『もやしもん』1巻より
 

廃棄物利用から生まれたジン

そして2020年に未来酒店の山本代表と共同で立ち上げた「エシカル・スピリッツ株式会社」では、酒粕を使ったジンを製造する。日本酒の製造過程で生じる酒粕は、たんぱく質、食物繊維、ビタミンなど、豊富な栄養素を含み、調味料や食材としての価値は高いにも関わらず、 需要と供給のバランスの悪さから、産業廃棄物として捨てられている。その酒粕を原料にクラフトジンを造り、得た利益の一部で酒米を作って、酒粕の製造元に提供する、世界初の循環型蒸留所を設立した。さらに、酒粕からジンを製造する技術を用い、2020年の新型コロナウィルス感染拡大の影響で、賞味期限切れで廃棄される80000杯のビールを使って、日本初のクラフトジン『REVIVE』を開発するなど、酒蔵や、大手酒造メーカーともコラボレーションし、酒造りの環境負荷を減らす努力もしている。

また塩漬けのタガメを食べた時の経験から、タガメの芳香をジンに移した「タガメジン」も辰巳蒸留所と共同で醸造した。「First Essence Tagame Gin」と名付けられた「タガメジン」は、昆虫を香りづけに使った日本初の蒸留酒だが、「ジュニパーベリーのさわやかな香りにタガメの持つ洋ナシのフルーティな香りがマッチしたいいジンができました」(山口さん談)

無味なのに、スウィーティな洋ナシの香りを放つタガメを使った「First Essence Tagame Gin」

26歳にしてやりたいことをやり尽くしているように見える山口さんに、今後やりたいことを聞いた。