経済成長が見込めない日本に最も必要なのは「成熟社会のデザイン」である

“社会の潮目”が大きく変化している
広井 良典 プロフィール

最後にこうした点に関し、昨年還暦を迎えた身として、若干の「希望」を込めつつ個人的な述懐を記すことを許していただきたい。

本稿でふれてきたように、私は20年以上前から「定常型社会=持続可能な福祉社会」という社会像を提案してきた。かつてはそれは日本社会全体から見れば少数派に属する見解だっただろうが、近年に至って、SDGsや持続可能性、「豊かさ」の意味や指標(ウェル・ビーイングなど)をめぐる議論等々が、経済界や企業レベルでも活発に行われるようになり、一部には表面的なものもあるにしても、ここ数年で“社会の潮目”が大きく変化していることを感じている。隔世の感と言ってもいい。

 

これは上記の昭和的価値観を象徴する、団塊の世代及びその前後の世代からの世代交代が(遅きに失する面があるが)徐々に進み始めているという、日本社会の世代的な変化とも関係しているだろう。それは先述の「経済成長がすべての問題を解決してくれる」的発想、あるいは“GDP至上主義”的思考からの構造的な変化でもある。機は熟しつつあるのだ。

そうした状況を踏まえ、資本主義論を契機としつつ、繰り返し述べるが環境・福祉・経済が調和した持続可能な福祉社会と呼びうる「成熟社会のデザイン」を正面から議論し、構想していく時期にいまの日本は至っているのである。

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