驚きの機能!細胞レベルで行われている「有害物の隔離・除去システム」とは
免疫細胞によるシステムと連動して命を守る自らを分解して「飢餓時の栄養確保」「細胞の新陳代謝」に働くオートファジー。
さらに、3つめの機能として「有害物の隔離・除去」があるといいます。有害物から身体を守る機能としては免疫機能が知られていますが、オートファジーによるものと、どうちがうのでしょうか? 引き続きオートファジー研究の第一人者である吉森保さんに解説してもらいます。
細菌はどうやって細胞内に侵入する?
レンサ球菌は、球形の細菌が数珠のようにつながっている細菌である。そのうちA群レンサ球菌は、喉や皮膚の細胞に侵入することが知られている。感染しても無症状のことが多いが、体力が落ちたときなどには咽頭炎や皮膚の炎症を起こす。まれに筋肉や肺の細胞に侵入すると、組織が壊死してショック状態となり死に至ることもある。
細胞の中には、膜でできた袋がたくさん詰まっている。それらの袋を「細胞小器官(オルガネラ)」と呼ぶが、このオルガネラどうし、あるいはオルガネラと細胞膜の間で物質のやりとりをしてる。この経路をメンブレントラフィックと言い、おもに4つの経路があり、細胞外から取り込まれた物質の輸送経路をエンドサイトーシス経路という。

細胞の中に取り込まれたA群レンサ球菌は、その仕組みを使って細胞の中に入り込む。A群レンサ球菌が細胞に入り込むところを捉えた電子顕微鏡画像を初めて見たとき、喉がムズムズしたものだ。
A群連鎖球菌が破壊された!
A群レンサ球菌がエンドサイトーシス経路を使って細胞の中に入り込むことはわかっているが、細胞の中に入った後にどうなるかはわかっていなかった。そこで予防歯科学が専門で細菌感染に詳しい大阪大学歯学部の天野敦雄さんたちとの共同研究で、細胞に入り込んだA群レンサ球菌を観察した。
すると一部が隔離膜に包まれているものや、オートファゴソームの中に入っているものが捉えられた。実は最初、歯周病菌を使っていたが、うまく観察できなかった。そこで、歯学部の中川一路(いちろ)さん(現・京都大学教授)が自身の専門であるA群レンサ球菌ではどうかとやってみたところ、それらの画像の撮影に成功したのだ。
オートファゴソームに包まれた細胞の成分は、分解される。A群レンサ球菌も分解されるのではないかと考え、A群レンサ球菌を細胞に感染させた後、1時間ごとに生きている細菌の数を数えてみた。すると、時間がたつにつれて生きている細菌の数は減り、5時間後には8割まで減っていた。
一方、オートファジーが起こらない細胞の場合、時間がたつにつれて細菌の数は増えた。これらのことから、細胞の中に細菌が侵入するとオートファジーが起こって細菌はオートファゴソームに包まれ、分解されて死んでしまうことがわかったのだ。

オートファジーによって自己の成分以外のものが分解されるというのは、衝撃だった。オートファジーは進化的に非常によく保存された仕組みで、酵母からヒトまですべての真核生物が持っている。
しかし酵母は小さく、細菌が侵入することはない。進化の過程で、細菌など有害物の隔離除去という新たな機能を獲得したのではないかと考えられる。