オートファジー、最近では、"プチ断食"などで、言葉くらいは聞いたことがある、という人も多いかと思います。細胞が自己を食べる働きということですが、いったいなぜ細胞が自分の一部を食べてしまうのでしょうか? 一体何のために?
オートファジーのしくみ解明でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さんとともに、長年オートファジーの研究に取り組んできた吉森保さんに、オートファジーの主要な機能について解説してもらいました。
オートファジーって何?
オートファジー、最近では、"プチ断食"など、美容やコスメティックな分野でも目にすることが多くなってきたので、言葉くらいは聞いたことがある、という人も多いだろう。
オートファジー(Autophagy)の語源はギリシャ語で、autoは「自己」、phagyはphage等と同類で「食べる」の意だ。日本語では、自食作用とか自己貪食などというおどろおどろしい訳語が使われるが、要するに細胞が自己成分を分解する機能のことで、いわば細胞の新陳代謝といったものと考えれば良いだろう。
私たちの器官や組織は、多くの細胞からなるが、それぞれの細胞は古くなると死に、新しい細胞に生まれ変わるという新陳代謝を繰り返している。例えば皮膚の細胞が死んであかになってはがれ、幹細胞から分裂した新しい細胞と交代することなどを想起するだろう。
オートファジーは、細胞内の成分の入れ替えを担っている。つまり従来から知られていた細胞の入れ替わりに加えて、細胞の成分も入れ替えられていて、それが細胞の恒常性、維持ひいては生体の健康維持に必須であることが、オートファジーの研究で明らかになってきたということだ。この細胞内部の新陳代謝は、脳の神経細胞や心臓の心筋細胞のように、一生の間にほとんど入れ替わらない細胞では特に重要である。
オートファジーはこの新陳代謝以外にも、飢餓時の栄養源確保や有害物の隔離除去など多彩な機能を持つ。後ほどそれらのオートファジーの働きについて順番に説明したい。
近年急速に進んだオートファジー研究
オートファジーの研究は、近年急速に進んだ。私がオートファジーの研究を始めた1996年ごろは、その少し前に流行っていたファジー家電と混同されたり、「自食作用」という日本語訳を使うと、辞職と間違われて「仕事を辞めたくなる作用ですか?」と言われ、もどかしい思いをしたものだ。
そもそもオートファジーは、1950年代にロックフェラー大学の細胞生物学者・ベルギーのクリスチャン・ド・デューブによって、飢餓状態にしたラットの肝臓の細胞を観察した際に、細胞質の一部を包み込んでいるような袋状の構造(オルガネラ。日本語では「細胞小器官」。非膜状のものと区別して「膜状細胞小器官」とも)を発見し、細胞は自己の成分を自分で食べて分解しているのではないかと考えた「オートファジー」と名付けたことに始まる。
2016年に大隅良典先生がオートファジーの分子機構の解明によってノーベル生理学・医学賞を受賞されると、オートファジーは多くの人に知られるようになった。

発見から後、特に近年は研究が進んで、オートファジーは、私たちヒトを含む動物や、植物、細菌や原生生物など真核生物とよばれる生体の細胞に見られる機構で、生体にとって極めて重要で多岐にわたる機能を持つことがわかってきた。
このオートファジーが、生体にとって、どのような機能を持っているのかをご紹介してみたい。