それは出生直後だ。
哺乳類の赤ちゃんの場合、母親のお腹の中にいるときは、へその緒を通して栄養が供給されている。出生直後は、へその緒からの栄養供給がなくなり、母乳によって栄養が得られるようになるまで飢餓状態となる。
しかしマウスの場合、母乳を飲まなくても24時間ほどは生きていられる。生まれたばかりのマウスは、オートファジーによって細胞の成分を分解し栄養を獲得することで、飢餓状態をしのいでいるのだ。オートファジーが起こらないマウスは、母乳を飲まないと12時間ほどで死んでしまう。

実験で確認することはできないが、おそらく人間の赤ちゃんでも、出生直後の飢餓をオートファジーによってしのいでいると考えられる。
断食しなくてもオートファジーは起こっている
飢餓のときだけでなく、低酸素や低温、放射線など、さまざまなストレスにさらされたときにも、オートファジーが活発化する。この場合は栄養源の確保ではなく、プログラム細胞死(生命維持のためにおこる予定された細胞の自殺)を誘導するタンパク質の分解などのためである。いわば緊急時の生命維持装置である。
「オートファジー断食」ということも流行っているようだが、言葉が一人歩きして、正しく理解されていない面もあるように思う。まずダイエット効果。動物実験によると、絶食してオートファジーが最初に盛んに起こるのは筋肉だ。筋肉が痩せ細ってお腹は出たままになりかねない。
また16時間断食しないとオートファジーは起こらないと思っている人もいるようだが、マウスなどでは絶食6時間でオートファジーが活発化するし、そもそも次の項で述べるように飢餓状態じゃ無くても普段からオートファジーは少しずつ起こっていて、それが健康維持にとても大事なのだ。
断食して盛大にオートファジーを活性化したら良いじゃないかという発想は、長時間の断食には血糖スパイクの問題などオートファジー以外の部分で諸々のリスクが生じえるし、どうだろうか。長く断食すればするほどどんどんオートファジーが活性化するかというとそんなことはなく、頭打ちになるし、緊急の生命維持装置を無理やり発動させ続けるのはあまり健全ではない。食事のタイミング(寝る前に食べないとか)や腹八分目、せいぜい1食抜く程度に留めた方が良いのではないだろうか。
そして最も重要なのは、普段から少しずつ起こっているオートファジーを低下させないことだ。それについては、次回に述べたい。
つづきは、関連記事の〈細胞は壊れる前に、自分で中身を作り替えていた!なぜ?〉https://gendai.ismedia.jp/articles/-/91639 から!
この記事は『生命を守るしくみ オートファジー』を再構成したものです。
生命を守るしくみ オートファジー —— 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム
吉森 保 著
ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏と共にオートファジーの研究に携わり、この分野の第一人者としてさらにオートファジーの役割やさまざまな病気や老化などとの関連を解明し続けている著者が、この細胞の驚きのメカニズムを詳しく解説。