今まで経験したドラマの現場とは全然違う
監督の納得がいくまで何度も粘り強くテイクを重ねた撮影についても「フラストレーションが溜まらなかったといったら嘘になる(笑)」と話す米倉さん。
「テイクを重ねていくと、何がよくて何がダメなのかわからなくなることも多々ありました。自分なりにトライした芝居でいうと、例えば、怒っているから新聞を叩きつける、上司に対して声を荒げたりしても、『もうちょっと抑えてくれて大丈夫なので』と。私としては『もっと大きい声を出したい!』と葛藤することもしばしばあって。初めての藤井組なので、撮影スタイルすらわかっていない中で、段取りに合わせてどう動いていけばいいのか芝居以外のところに気を取られて消費してしまう部分もありました。
クランクインは茨城でのロケだったんですが、初日ならではの“やっていこうぜ!”的な勢いある挨拶みたいなものが全くない淡々とした雰囲気でスタート。一つのシーンが終わって、次のシーンへ移動するときも、特に声かけがあるわけじゃなくてスルスル〜っと進行していく。今まで経験したテレビドラマの現場とは全然違うんですよね。監督自身も『僕たちは異質なんです』とおっしゃっていたんですが(笑)、こんな空気感や撮影スタイルもあるんだと、私にとっては新鮮な経験でした。別の現場に行ったら、私自身また違った影響を受けるのだろうと思うと、新しい扉をこれからも開いていきたいと思いましたね」

国民的人気を誇るドラマ『Doctor-X~外科医・大門未知子~』シリーズをはじめ、これまで関わってきた作品の中で存分にキャラクターを輝かせてきた米倉さんにとって、松田杏奈を演じたことは間違いなく彼女のイメージを一新させる。
「作品を6話通して見ることによって監督の意図が理解できましたし、削ぎ落とす芝居を求められた理由も腑に落ちたんです。松田杏奈は新聞記者として真相を追求する立場にいるけれど、それ以上に他の登場人物たちをめぐることで、それぞれの立場や抱えている思いを垣間見ていくような風のような存在でもある。力強さではなく、彼女自身が葛藤を抱えながらも寄り添っていくことが、松田を演じる上での何よりの説得力にもつながりました。キャラクターを立たせることで彩られる作品もあるけれど、このドラマに関しては心を痛めてしまった人が抱える思いや、傷ついた人が社会には存在していることを伝えていくことが最優先。キャラクター云々ではなく、そのストーリーを見せるのが最も重要だと感じました」