日本人の誰もがよく知るカレーは、国民食と呼べるほど浸透していますが、同時にカレーほど、人によって思い浮かべる味や形が異なるものもありません。

お母さんの作ってくれたカレー、キャンプで食べたカレー、グルメサイトで高評価のレストランのカレー……。思い出に残るカレーには、何が入っていましたか。また、ほかの人は、どんなカレーを食べているのでしょう。

プロの料理家や食通と呼ばれる方々に、今イチオシのカレーを、作り方とともにご紹介いただく、「カレーリレー」の連載。第1回は「イタ飯」ブームの先駆け、山田宏巳さんです。

 

イタ飯ブームの先駆けレジェンド

15歳から料理の世界に入った山田宏巳シェフが初代料理長をつとめた伝説のレストラン「バスタパスタ」(1985~2000)。このレストランは、客席の中央に舞台のようなフルオープンキッチンを配し、客は活気あふれる厨房のすべてを見ることができた。ニューヨークスタイルのクールさと、当時はまだ目新しかったイタリア料理が、時代の先端をいく業界人やセレブたちを引き付け、「バスタパスタ」は山田シェフの名前とともに、'90年前後から始まる「イタ飯」ブームの先駆けとなった。

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その後も、「リストランテヒロ」(1995年~)、「ヒロソフィー」(2009年~2017年)など、山田シェフが新店をオープンさせるたびに、ユニークかつ絶対的な才能で、話題をさらってきた。波乱万丈な生き様には様々な声もあるが、多くのシェフを巻き込んでチャリティ活動をしたり、沖縄サミットではイタリアの首相のプライベートシェフの任についた山田シェフは、イタリア料理界のレジェンドの一人であることは間違いない。

そんな山田シェフが、「目の前のお客様だけを見ながら、料理を作りたい」と、2020年10月赤坂にオープンしたレストランが「インフィ二ートヒロ」だ。2卓のテーブル席もあるが、 客のほとんどはカウンターを望む。目の前で腕をふるう山田シェフと、 対話しながら味わうその時間も、醍醐味のひとつだからだ。

カウンターに立つ山田宏巳シェフ。photo by Rin

そして、山田シェフといえば、食べることにも貪欲なことで知られている。世界中から客が押し寄せたスペインの三ツ星レストランのシェフズテーブル(厨房の中に置かれたテーブル。シェフが目の前で作るのを見ながら、食事が楽しめる特別席)から、郊外の古びたラーメン店のカウンターまで、美味しいと聞けばすぐさま飛んでいき、納得がいくまで何度でも通う。また、地方に「すごい食材がある」と聞けば、あらゆるつてをたどって手に入れ、自分の手で料理せずにはいられない。こうした出会いの中から生まれた一皿が、スペシャリテ「高知産フルーツトマトの冷製カペッリーニ」だ。

そんな山田シェフにとって、カレーとはどんな存在だろうか。まずは思い出のカレーを聞いてみた。