「バイアグラ」が保険適用の影で…
2月2日、「バイアグラ」が保険適用になることが決定した。バイアグラとは、勃起障害の治療薬で、「不妊治療の目的」という限定がついているが、4月から公的医療保険の対象となる。今まで、自由診療での価格なので一定ではないが、ジェネリックも含めると今まで、1錠50mlで平均500~1500円相当だったものが、保険適用で安く入手できるようになるのだ。子どもを産みたいと思った人が少しでも産みやすい社会の実現のために、不妊治療が保険適用になるのは、大いに歓迎すべきことだ。

一方、このニュースに釈然としない思いを抱える女性も多く、SNSには怒りや悲しみの声が並ぶ。というのも、長年女性たちがアクセスの改善を訴え続けてきている『緊急避妊薬(アフターピルとも呼ばれる)』も先日やっと添付書類から「内診」の項目が削除されほんの少し国際スタンダードに近づいたばかり。内診の負担が減ったことは大きな一歩だが、未だに保険は適用されず価格は6000~2万円もかかってしまう。
さらに、2021年12月22日に日本国内で初めて、承認申請が提出された『経口中絶薬』も価格が10万円程度になると言われている。緊急避妊薬も経口中絶薬も国によっては公費負担で無料提供されるところもある。さらに、WHOによれば、経口中絶薬の世界の平均卸価格は740円(※1)……。なぜ、日本は女性が深く関係する産まない選択のための生殖医療に関する費用がこんなにも高いのだろうか。そして、その問題を懸命に訴えても時間がかかり、なかなか実現もしない。
過去に記事にもしたが、日本は経口避妊薬(ピル)の承認が1999年と国連加盟国の中で最も遅かった国として知られている。経口避妊薬が完成したのが1955年なので、実に40年以上の時間がかかったわけだが、承認の引き金になったのは、バイアグラが半年という異例のスピードで認可され、「バイアグラは半年で承認するのに、経口避妊薬はいまだに認めないのか」という国内外からの批判を恐れたからと言われている。緊急避妊薬も、2011年の承認で欧米諸国には約10年遅れ、当時認可がない国は北朝鮮やイランなどごく少数の国だったという歴史がある。
今回のバイアグラの承認は、別の勃起障害治療薬、排卵誘発剤など不妊治療に関する5成分12品目の薬剤が保険適用になったことに合わせての承認だった。男性のEDも不妊の原因のひとつだ。勃起治療薬が保険適用になっていないのはG7で日本だけだという。そう考えれば今回、不妊治療目的で保険適用になるのは適切な判断であったのだろう。しかし、女性の避妊や中絶に関する治療も世界水準からは大きく後退している現状がある。少子化対策の一環で、不妊治療への理解が深まるのと同じように、真逆のものに見えるかもしれないが、少子化対策といっても望まぬ妊娠を増やしたいとは思わないだろう。重要なのは子どもを産みたいと思える環境作りや、産みたい人がきちんと産むための医療。そして、避妊や中絶も同じ生殖医療であり、誰もが選択できる権利だ。
避妊や中絶などの生殖に関する「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」に関して、長年活動し続けている『なんでないのプロジェクト』の福田和子さんに、経口中絶薬の高価格設定から今回の問題をレポートしてもらった。