「ぼくは、エイリアン」54歳で若年性アルツハイマーになった東大教授が見た世界

妻が語った、夫・若井晋のこと
若井 克子 プロフィール

「徘徊」の裏に隠された思い

彼の「いやだ」という気持ち。私はそれを、肌身で感じていました。晋は、ちょっと腹が立ったり、気にさわることがあると、いつのまにか家を飛び出していくことがあったのです。

最初は沖縄でした。移り住んだばかりで、まだ西も東もわからないのに、夜、真っ暗ななか出て行ったことがあります。さがしに行きたいとは思いますが、土地勘がない……。うかつに出たら私自身、迷子になりかねません。

沖縄で見た風景(写真提供:若井克子)

だから私は家に留まるのですが、さがしに行かなければ行かないで、心配が募ります。不安を抱えたまま、私は不用なセーターで人形を作りながら、心のなかでは晋の安全を祈りながら、待つしかありませんでした。

そうして、1~2時間もたったでしょうか。気がまぎれたのか、ご機嫌な晋が無事に帰ってきたときは、思わず肩の力が抜けました。

栃木の自宅に戻ってからも、晋はよく出て行きました。

 

子どもたちに勧められてGPSを導入し、追跡できるようにしたのですが、私たちが住んでいるのは、目印になる建物もろくにない田舎です。車でさがしても見つかりません。どうしようもなくなって家に帰ると、なんと、晋がいるではありませんか。驚いて、

「どうやって帰ってきたのよ」

と尋ねると、

「いやあ、途中でヒッチハイクして帰ってきた」

開いた口がふさがりませんでした。

〈何なんだ、この人は〉と反感すら覚えましたが、今になって思えば、晋はフラストレーションを発散するために歩き回っていたのでしょうか。

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