孤立した世界で起こる「アスリート・アビューズ」

今回の報道から、15歳の子どもに薬物を差し出す大人たちの存在にゾッとした方も多いと思います。ですが、アスリート、またスポーツ以外の才能のある子どもたちを巡り、「アビューズ(乱用、悪用、虐待)」する環境が報告されたのは今回が初めてではありません

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2016年、アメリカ体操連盟のチームドクターのラリー・ナサ―医師が200人以上の選手に性的虐待をしていた事件が発覚しました。この事件では、体操エリートコーチのカロリコーチも虐待に加担していたことがわかっています。また、音楽界でも同じような事件が2018年に発生しています。米ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)は名誉音楽監督を務める著名指揮者ジェームズ・レバイン氏が複数の若い音楽家に対して性的、感情的虐待をしていたことが発覚し、アメリカで大きなニュースになりました。

米国体操界の絶対的エースであるシモーネ・バイルズ選手は、性的虐待の被害者であるとカミングアウトした。photo/Getty Images

しかし、あくまでもこれらは発覚したケースであり、氷山の一角でしょう。ニュースになるケース1件につき、ニュースにならないケースがどれだけあることか……。国際大会でなくても、部活顧問からの指導という名での虐待や性暴力、先輩や教師からの虐めも度々報告されています。これはロシアやアメリカだけでなく、日本でも日本大学ラグビー部の問題などが報道されましたが、世界各国で起きています

アスリートというのは、小さな世界に籠りがちです。練習時間が多いことが一番の理由ですが、他の世界に触れる機会が少なく、コーチ、トレーナー、または先輩の指導のもと、「優勝」という画一の目標に向かう環境が作られます。その環境だけにいると、外の世界から見ると大したことじゃないでないこともとても重要に思えることがあります。また、掲げられた目標の達成が何よりも最優先で、重要なことだと思わされてしまいます。他に比べるものがない中、どんなことが「普通」で、どんなことが「問題」なのか、気付きにくくなってしまうわけです。

他の人が介入できない隔離された環境は、主従関係の中でパワーを持つ立場の人がその力を行使しやすいという特性があります。こういった理由から、スポーツは虐待やハラスメントが起こりやすいのです。特に、子どものアスリートに対して、コーチ、連盟というのは、のキャリアへの圧倒的なパワーを持つ存在なのです。

ロシアのチーム・トゥトベリーゼもアメリカ体操選手の性暴力事件も、現場に選手の親が介入できないシステムを作っていました。すでに社会から隔離され、練習漬けになった環境の上に、子どもたちの一番の代弁者でありサポーターである親という存在を引き離されてしまう……。こういった環境も若い選手の判断を曇らせてしまったのだと思います。