心を打ったヴィンセント・ジョウ選手の発信

今回、ロシアの手段を選ばないメダルへの執着や、ワリエワ選手のスキャンダルを見て、「成功を結果だけで測ってしまう危険性」に関しても考えさせられます。短期的な結果を求めて、ルールを破ったり、嘘をついたり、身体や精神を酷使しても、長期的な幸せには繋がらないことがほとんどです。逆に真摯な努力と、自分を偽らない誠意は、どんな結果に遭遇しても、自尊心と幸せをもたらすと思います。

今回の北京五輪は、結果だけの成功を追わない選手に触れ、感動することが多かった大会でもありました。

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先日寄稿した記事で書かせていただいた羽生結弦選手もそうですが、もうひとりご紹介したいのが、今大会アメリカチームとして団体戦に出場したヴィンセント・ジョウ選手です。ジョウ選手は、フィギュア男子シングル個人戦が始まる前日にコロナ陽性が発覚して、彼の全人生をかけて準備してきたオリンピックの個人戦の舞台に立つことができませんでした。想像を絶する悔しさだったと思います。

しかし、個人戦に出場できないことがわかった後に、彼はSNSに動画で、「幼い頃の自分が夢に描いていた自分に、自分はすでになっている」と涙を流してコメントしたのです。

自身のInstagramでコメントをアップしたヴィンセント・ジョウ選手。写真/ヴィンセント・ジョウ選手Instagramより

その通りだと思います。彼が誰であるかは、個人戦に出場したかどうか、メダルを取ったかどうかで変わるものではありません。前回五輪から4年間、ヴィンセント選手は練習環境を変えたり、競技に集中するために名門ブラウン大学を休学したり、2019年世界選手権で銅メダルを獲り、2021年の選手権ではショート落ち(ショートプログラムの順位が低くてフリーに出れないこと)するなどさまざまな経験を経て、その翌シーズンで五輪進出権を勝ち取りました。その軌跡こそがヴィンセント・ジョウであり、北京五輪に出場できなかったことで変わるわけではありません。結果に表れる成功だけが成功ではない。そう思わせてくれて、ありがとうと伝えたいです。