損傷ミトコンドリアを除去してパーキンソン病を防ぐ
神経変性疾患の中には、オートファジーで働く遺伝子の変異が発症に関わっているとわかっているものがある。その1つが、パーキンソン病である。
パーキンソン病は、脳にあるドーパミンという神経伝達物質をつくる神経細胞が死んでしまう疾患で、体がうまく動かない、自分の意思とは関係なく手足が震える、といった運動障害が起きる。兄弟姉妹や親子など血縁者に発症者がいる家族性と、それ以外の孤発性に分けられている。遺伝学の発展により、患者の遺伝子を網羅的に調べることで、どの遺伝子の変異がその疾患の発症に関わっているかがわかるようになってきた。
遺伝性がある方が突き止めやすいことから、家族性パーキンソン病の発症に関わっている遺伝子の探索が行われた。その結果、順天堂大学の服部信孝さんたちが1998年、世界に先駆けて家族性パーキンソン病の責任遺伝子を発見し、パーキン(PRKN)と名付けた。発見時にはPRKNがどのような機能を持っているかわからなかったのだが、2004年に家族性パーキンソン病の責任遺伝子として発見されたPINK1と共にオートファジーで働くことが、後に明らかになっている。

損傷したミトコンドリアがオートファジーによって選択的に除去されていることを、前に述べた。PRKNとPINK1がコードするタンパク質は、損傷ミトコンドリアに分解の目印であるユビキチンを付ける働きを担っていた。PRKNあるいはPINK1に変異があると、ユビキチンが正しく付かない。すると、損傷ミトコンドリアが除去されずに細胞内に蓄積していく。
ミトコンドリアは、細胞の活動に必要なエネルギーをつくるオルガネラ(細胞小器官)である。損傷すると、エネルギーをつくるときに発生する毒性のある活性酸素が漏れ出し、細胞を傷付ける。損傷ミトコンドリアが蓄積することで細胞の機能が低下し、パーキンソン病を引き起こすという発症メカニズムがわかってきた。
オートファジーは、損傷したミトコンドリアを除去することで、パーキンソン病の発症を防いでいると考えられる。