あの出来事から1年経った

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」
「私どもの組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんなわきまえておられる」

これは、ちょうど1年ほど前、当時オリンピック組織委員会会長だった森喜朗氏が発した言葉だ。この発言は、少し前から徐々に注目を浴びつつあった「ジェンダー」を認知させるきっかけともなり、大きな波紋を呼んだ。この問題は連日のようにニュース報道やSNSなどで取り上げられ、その後森氏は辞任することとなった。

当時オリンピック組織委員会会長だった森喜朗氏の発言が波紋を呼び、辞任へとつながった。photo/Getty Images

この頃私は、日本のジェンダー問題に取り組む傍ら、スウェーデンで公衆衛生を専攻する大学院生だった。ジェンダー平等が国民のプライドのように大切にされているスウェーデンにいたからなのかはわからないが、あの発言を聞いて「現実とはこうなんだぞ」と見えない拳で殴られるような衝撃を感じた。同時に、「またか」「もういい加減にして」と、スマホ画面をスクロールする指を止め、怒りの声で溢れるTwitterを一度はそっと閉じた。

しかし、それでもモヤモヤは止まらなかった。そのとき執筆した記事に詳細があるが、消化できない気持ちで、当時流行っていたClubhouseでこの発言について語るルームを開いた。事前の告知もなく23時を回っていたにもかかわらず、100人以上が集まり、リレートークのようにひとりひとりの抱える思いが吐露された。

 

その中にいたひとりが、若者の政治参加を目指す『NO YOUTH NO JAPAN』代表の能條桃子さんだ。ルーム終了後連絡をいただき、そこに、声を上げやすい社会を目指して活動する『 VOICE UP JAPAN』代表の山本和奈さんも加わった。さらに、アスリートの下山田志帆氏、音楽家の坂本龍一氏、歌手・アーティストのコムアイ氏、日本文学研究者のロバート・キャンベル氏などを含む55人の方が賛同人として名を連ねてくださり、最終的には15万筆以上を集めることができた

そのとき私たちが求めたのは、「森氏の処遇の検討」と「再発防止」「女性理事割合4割達成」だった。私たちはあえて森氏の辞任を求めることは掲げなかった。その理由は個人の責任として終わらせてしまうのではなく、それを許してきた組織、社会構造にこそ問題があると伝えたかったからだ。でも、私たちに「辞任を!」と言わせて明確な対立構造を作りたいのだろうなと思わせるメディアからの質問も少なくなかった。しかし、それで終わらせてしまっては意味がないと、必死で「森氏の処遇の検討を」「これを許す社会構造こそ問題なんです」と伝え続けたのを覚えている。

そんな私たちが掲げたハッシュタグは、「#ジェンダー平等をレガシーに」だった。
この一連の出来事がポジティブな形で未来につながってほしい、その一心だったように思う。

福田さんらが立ち上げた「#ジェンダー平等をレガシーに」の署名。(現在は終了している)

あれから1年が経った。果たして「#ジェンダー平等をレガシーに」は多少なりとも達成されただろうか? 署名は10日ほどで15万7千人以上もの人が参加してくださった。あの嵐のような瞬間によって、この社会はすこしでも変われたのだろうか?

署名を提出した日からちょうど1年が経った先日の2月16日、署名を提出したメンバーとともにオンラインイベントを開催した。そのイベント報告も絡めながら、私なりにこの1年を振り返ってみたい。