2022.02.26
# 医療

世界初「豚の心臓を移植された男性」の事例から、「医療倫理」を考える

はたして、適切だったのか?

「豚の心臓」を移植する世界初の手術

2022年1月7日、米国のメリーランド大学病院で、57歳の重度の心臓病患者デヴィッド・ベネット氏が、豚の心臓を移植する世界初の「異種移植」手術を受けた。手術時間は7時間以上だったという。

ニューヨークタイムズ紙の記事によれば、手術を行ったバートレイ・グリフィス医師から、「世界初の手術で成功するかどうかはわからないが、ベストを尽くす」と説明を受けたベネット氏は、「ブーブー鳴くようになるのかい?」と聞き返したという。

もちろん、彼が実験的治療のインフォームド・コンセントでの説明内容を理解していなかったのではなく、アメリカン・ジョークである。

2月中旬時点では、彼の新しい心臓は機能しているとのことだ(追記:2022年3月8日に亡くなられた)。

Photo by iStock
 

ネット時代の現代では、こうした報道に対するバッシングもあり、ベネット氏の過去の犯罪歴(暴行罪)なども批判的に取り上げられ、「前歴者に移植手術を受ける資格はあるのか」議論にもなっている。

だが、そうしたことは、心臓移植の必要性の有無や病気の治療方針とはまったく別次元の話というのが、病院の見解である。

なお、ベネット氏に移植された豚の心臓は、救命のための緊急避難の実験的治療であって、あくまでピンチヒッターの「中継ぎ」という位置付けだ。

場合によっては、再度の手術が必要であり、脳死者を提供者とする心臓移植を待つ状態であることには変わりはない。

今後、こうした異種移植の技術が安定してくれば、重度の心臓病は、豚の心臓の移植で治療することが一般的になるかもしれない。

実際に、豚の心臓弁は、すでに心臓弁膜症の治療に広く使われているのだから、そう突飛な話でもないだろう。

ただし、豚という動物は、ムスリムなどの場合は宗教的にはタブーで、動物の中でも印象はあまりよろしくない。今回の異種移植チームの中心的存在であるムハンマド・モヒディン医師は、パキスタン生まれのムスリムで、家族からは豚の臓器を人間に使うことへの批判があったという。

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