多様な意見こそ価値を生む源泉
リーダーシップ不在の組織、人間関係が希薄な組織、生真面目な組織などが心理的安全性を重視しようとすると、「一人ひとりの意見を大切にすべき」という意識が過剰になり、すべての意見を均等に重んじる方向に進むことが多い。

しかし全員の意見をそのまま取り入れることは、対話や議論を放棄することの裏返しであり、結論の先延ばしか、多数決かの二択になってゆく。前者は価値創出の機会を逃し、後者は組織内に亀裂を生みかねない。
特に、計画や手続きの尊重・厳格な品質・均質なサービスを求める組織(行政・金融・メーカーなど)は、言葉を忠実に実行しようとする「取り入れ型の思考」に陥りやすい。
また、リスクへの感度も高く、誰かがリスクを指摘すると責任回避に意識が向かい、場が固まってしまう。すべてのリスクを避けるべく複雑な議事録が配布され、さらに何も決められない状態に陥る。
一方で、目に見えないリスクや、責任の所在があいまいなリスク、例えば「先延ばしのリスク」は無視されてしまう。いつまでたっても結論を出せず、北条家を滅亡に導いてしまった痛恨の重臣会議、小田原評定そのものである。
「ティール組織」として有名なオランダの在宅ケア法人・ビュートゾルフでは、リーダーなしでも意思決定できるよう「相互作用による問題解決法」を全組織で共有している。この画期的な意思決定メソッドは、3つのラウンドから成っている。
・学習課題の共有:メンバーが抱える問題を共有して提案を募る。ファシリテーターは判断を下さない
・第三案の共創:それをベースに修正や改善が加えられて、全員で第三案としての解決策がつくられる
・信念に基づき実行:多数決はしない。信念に基づいて異議を唱えるメンバーがいなければ解決策が採用される
例えば、「別の解決策の方が良いかもしれない」という理由では拒めない。新たな情報が入った時には、いつでも見直すという共通の価値観があるからだ。個人の信念を尊重し、走りながら現実にあわせて修正していくという考え方だ。
何も決まらなくなる落とし穴にはまらないためには、リスクゼロを志向すると自らを変革するチカラを失うこと。組織のパーパスを共有し、多様な意見こそ価値を生む源泉であること。この二点を共有しよう。
未来にチャレンジしてこそ、組織は学習でき、新しい知識を得られる。メンバー全員が対話し、走りながら考え、小さな実験から学ぶ行動習慣を身につけることが大切なのだ。