幼い頃からヤマハ音楽教室で学び、ロシアの先生に師事し、地元の中高に通いながら練習を重ね、音大に進まなかったピアニストの上原彩子さん。2002年、21歳の時に世界三大コンクールの一つであるチャイコフスキー国際コンクールで日本人として、女性として初めて1位になり、その記録は現在も破られていない。オファーが殺到していた25歳の時、結婚して3児の母となり、演奏活動をしてきた。現在は東京藝大ジュニア・アカデミーで中学生の指導にもあたる。2022年はデビュー20周年。子供の頃からのピアノ人生や、子育てと演奏活動の両立、若い世代を育てるということについて、上原さんにインタビューの機会をいただいた。

Photo by Akira Muto
上原彩子(うえはら・あやこ)第12回チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門において、女性としてまた、日本人として史上初めての第一位を獲得。ヤノフスキ、ノセダ、ルイジ、ラザレフ、ブラビンス、ペトレンコ、小澤征爾、小林研一郎、飯森範親、各氏等の指揮のもと、国内外のオーケストラのソリストとしての共演も多い。 CDはEMIクラシックスから3枚がワールドワイドで発売された他、キングレコードに移籍し、「上原彩子のくるみ割り人形」「ラフマニノフ13の前奏曲」「上原彩子のモーツァルト&チャイコフスキー」がリリースされている。著書に『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み~』。東京藝術大学音楽学部早期教育リサーチセンター准教授。
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ウクライナとロシア…思い様々に

2月27日、上原さんは東京のサントリーホールでデビュー20周年公演「2大協奏曲を弾く!」を開いた(原田慶太楼指揮、日本フィルハーモニー交響楽団)。チャイコフスキーの協奏曲第1番は20代の頃に良く弾いたといい、ラフマニノフの第2番は、子育て真っ最中の30代に良く弾いて、思い出がたくさんあるそうだ。

公演に伺った筆者も、ロシアの重厚な楽曲を弾きこなす上原さんの技術と表現力、オーケストラとの掛け合いに引き込まれた。曲の世界に入り込み、前のめりの姿勢になっている上原さん。力強いパートは、小柄な体をばねのように弾ませて奏でる。2千人が入るホールは満席で、一体感が生まれていた。2時間の公演後は拍手がやまず、カーテンコールが繰り返された。アンコールは、柔らかで繊細なピアノによるチャイコフスキーの「瞑想曲」だった。

来場したファンは「チャイコフスキーの3楽章は、ウクライナ民謡がとりこまれている。世界情勢を考えさせられた」「包み込むような瞑想曲は、この状況を思って選んだのでしょうか」と語った。SNSでも、「音楽に引きこむパワーがものすごかった」「上原さんの人生、雄大なロシア、哀しみの内にいるウクライナ、いろんな思いがこみ上げて涙」といった感想が目立つ。上原さんは演奏後、「チャイコフスキーの3楽章を弾いている時に、あれは強いリズムが特徴の曲ですが、そこを弾きながら、戦争をやめてほしいと、強く思って、若干アクセントがいつもより強くなったかなと思います」とコメントを寄せてくださった。

1840年に生まれたチャイコフスキーはウクライナ・コサックのチャイカ家に出自を持つ。ロシアの誇る作曲家だ Photo by iStock