2022.04.07
# 本

大木亜希子×セントチヒロ・チッチ「挫折も葛藤も解散も、全てが今に辿り着くためにある」

創作小説『シナプス』刊行記念として、作家・大木亜希子さんからの熱烈なラブコールで実現した今回の対談のお相手は、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーであり、まとめ役も担うセントチヒロ・チッチさん。「アイドル」の経験という共通点はありながら、別々のキャリアを歩んできた二人は、令和の時代、どんな思いを胸に秘め戦い続けているのでしょうか?

(構成:金子修平、撮影:松井雄希)

 

初対面から信頼し合っていた二人

──お二人の出会いは、大木さんによるBiSHへのインタビューだったそうですね。

大木 初めてお会いしたのは、BiSHの所属事務所・WACKによる2019年のオーディション合宿を記録したドキュメンタリー映画『IDOL─あゝ無情─』(松竹・2019年)での対談企画でした。そこから、今回の対談依頼にもつながったんです。メンバーのみなさんそれぞれ素敵だし、優しかった印象で。なかでもチッチさんは、インタビューが進むにつれて言葉に噓がないと思ったんですよね。上手く言おうとしない実直な発言から、メンバーやファンのみなさんをちゃんと思っているのが伝わってきて。またいつかお会いしたいと、ずっと思っていました。

チッチ (はにかむ)

大木 急にすみません! 冒頭から熱烈なラブコールで(笑)。

チッチ ありがとうございます(笑)。

大木 うれしい(笑)。本当、チッチさんのことが脳裏に焼き付いていたんです。ご記憶にあるかは分かりませんが、映画での対談時に「今日のような対談の仕事もだし、大木さんのような人がいてくれてよかった」とおっしゃっていただいて、うれしかったです。

チッチ 当時の対談で、噓なくお話しできたのは、大木さんがBiSHのことを考えて質問してくださったのが伝わってきたからなんですよ。まっすぐ私たちに向き合ってくださっていたのが、私にとっては印象的で。噓をつきたくないとかねてから思っていますけど、大木さんの熱量に負けないよう、「一つひとつの言葉を一生懸命に、大事に返さなきゃ」と感じたのは覚えています。

大木 そんな気がしました。

チッチ うん。今もまっすぐに伝えてくれているのが分かります。

大木 え、泣きそう……(笑)

チッチ 大木さんって、ひたむきさが伝わるじゃないですか。あの時もすごく素敵な女性だなって、一人の人間として尊敬しました。

大木 ありがとうございます。先ほどの『IDOL─あゝ無情─』のあと、2020年のWACKオーディション合宿を記録したドキュメンタリー映画『らいか ろりん すとん─IDOL AUDiTiON─』(松竹・2020年)のパンフレットでもコラムを寄稿させていただきましたが、作中で、チッチさんが候補生のみなさんに発破をかける姿を見て、鑑賞後に席から立てなくなってしまいました。候補生の方と同じテンションで、オーディションと向き合っていらっしゃって、私だったら元に戻るのに数ヵ月もかかるだろうと思えるくらい、追い込まれている印象があったんです。どのように感情を切り替えていたんですか?

チッチ 候補生の子たちを「私がどうしてあげられるか」が常に念頭にありました。それに、裸でぶつかることは自分だけでなく、WACKのためでもあるんです。人生をかけてやっている場所だからこそ、自分の中で「一緒に仕事したい」と一番に思える子たちを選びたいと考えていましたし、一緒に生きていきたい子たちと出会いたかったから、それぞれの中身で真に輝く部分を限られた時間で審査員に見せてあげたかった。それができなければ、何も意味がないと思うくらい、私も候補生の子たちと同じくらい必死でした。

大木 それほどの覚悟がないと、若い子たちにも伝わらないような感覚はありましたか?

チッチ そうですね。若い子たちが本当はどんな感覚でいたのか分からないけど、自分たちが姿勢を見せないことには伝わらないと思っているので。そうしないとなめてかかってくる子もいるでしょうし、そもそもどう戦っていけばいいか分からない子たちも多いだろうと感じたので、自ら体現することにしました。

大木 それってもう、仕事じゃないと思うんですよ。労働の対価でお金がもらえるのは当然ですけど、それ以上じゃないですか。チッチさんがなめてかからず真剣に向き合っているから、本気だから、彼女たちにも思いが伝わる。映画の『IDOL─あゝ無情─』と『らいか ろりん すとん─IDOL AUDiTiON─』では、鑑賞した直後は、「すごい映画を見てしまった」しか言葉が出てこなくて、それ以上、自分の感情を自分で説明することはできませんでした。そこからしばらくは、出演者の皆さんのあまりに大変そうな様子が消化されないまま胸に残って、嫌悪感にも似た、辛い感情を持ち続けていました。でも、その後さらに日が経つにつれてようやく自分の中で消化できたころには、映画内での一部始終が「人生だ」と腑に落ちるようになっていましたし、その人生に立ち向かっているBiSHさんを、心の底から尊敬するようになっていました。超人的な努力を重ねているけど、それを絶対にアピールしようとしない姿が本当にカッコいいんです。

チッチ ありがとうございます。私も、大木さんをカッコいいなと思ってるんですよ。自分たちについての記事(大木亜希子・note「拝啓・渡辺淳之介さま。あなたは全て知っていて、少女たちを試すのですか?」2021年2月5日)も拝読して、やっぱり同じような人生を一度は歩んだ大木さんならではの視点だなと思いました。私たちは音楽を主戦場にしているけど、アイドルを経て、今では文章を武器に戦っている大木さんの姿がカッコいいなと。勇気も覚悟も要ることだと思いますけど、人間として「めちゃくちゃスゲェな」と思っています(笑)。

大木 アハハ。うれしい(笑)。

チッチ 私について熱く語ってくださいましたけど、文章に変えて伝えるのは私にはできないことですし、憧れています。

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